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 出入り口の自動ドアからまだ明るい外へ向かって学生たちが賑やかに流れ出ていく。その流れを遮るようにして勇大が足を止めた。こんなところで立ち止まるな、邪魔だよ、というような声と共に数人が勇大を追い越していく。颯馬は慌てて勇大の腕を引いて外へ出た。  左右に伸びる七段程の階段を、駅とは反対方向へ下りて歩道の端まで勇大を連れていく。そこでようやく腕を離して、颯馬は改めて携帯電話を持ち上げた。 「颯馬」 「ん?」  学校終わった、と手早く文字を打つ。  送信しようとした瞬間、勇大の手が颯馬の手から携帯電話を奪い取った。 「颯馬!」 「あ、何だよ勇大」 「聞いてみるって何」  普段の明るい勇大の空気ががらりと変わった。真剣な表情の勇大の眼差しが颯馬に真っ直ぐ突き刺さる。  勇大と話していてこんな雰囲気になったことはなく、颯馬は戸惑いながら口を開いた。 「え、だって……、行っていいのか聞かないと」 「誰に」 「……せ」  先生に、とは言えずに言葉を変える。 「……付き合ってる人に」  勇大が深く息を吐き、颯馬に向き直った。 「今日、その人と会う約束してんの?」 「……してない。でも大抵夜は向こうの家に行くし……」 「それまでの時間は、颯馬がどう過ごそうとその人の許可はいらないじゃん」 「……許可って」  そんな大袈裟なものじゃないし、という颯馬の言葉に勇大の声が重なる。 「同じことだろ。その人の家に行くまでの間、俺と過ごしてもいいかって聞くんだろ。それで? だめだって言われたら颯馬どうすんの」 「……だめだとは言わないよ」 「言われたことない?」 「……まだ一度もそういうの聞いたことないからわかんないけど、でも」 「学校終わったら連絡して、バイト始まる前にも連絡して、バイト終わって連絡して、家に帰ったら連絡して、寝る前は? 電話すんの?」 「……勇大」 「前から思ってたけど、その人ちょっと束縛し過ぎだよ。今のうちから少しずつ距離置いた方がいいって、絶対」  今度は勇大が颯馬の腕を掴んで歩き出した。十字路を右へ曲がって大通りへ、ちょうど青信号だった横断歩道を渡って左へと進んでいく。有無を言わさない勇大の行動に、颯馬は大人しく従うことしかできなかった。叱る、責める、というような色を含んだ口調に弱いからかもしれない。携帯電話を勇大に取られたままだから、という理由もある。 「とりあえずファミレス行く。そこで勉強しようよ。一時間位遅れて連絡したって問題ないだろ、別に」 「……わかった」  何故勇大が自分を咎めてくるのかという理由よりも、坂城への連絡手段を取り戻すことばかりを考えて、颯馬は彼に連れられていった。

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