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16-3
「こら、身体洗ってるだけなんだけど?」
我ながら意地悪だと思うが止められない。含み笑いで囁くと颯馬が緩く首を振った。
「先生が悪いんだよ、そんなふうに触るから」
「そんなふうって、どんなふうに?」
「……うるさいな」
振り返った颯馬が抱きついてくる。泡をまとった颯馬の肌と坂城の肌が触れ合い、ぬるりと滑る。そんな感覚は初めてだったのだろう、一瞬たじろいだ颯馬に坂城はキスをする。すぐさま舌を差し入れ、颯馬の舌を絡め取った。
「……ん、……っ」
待ち望んでいたというような恍惚の表情で颯馬が坂城のキスを受け入れる。以前は戸惑いがちだったキスも、今ではすっかり甘く柔らかなものに変わっている。坂城のものにだけ応えるキス、それを颯馬はよく覚えてくれた。
脇腹から腰骨まで撫で下ろし、今度は上へと手を這い上がらせる。手のひらを使ってゆっくりと、円を描くように胸を撫で回すと颯馬が身体を震わせる。指先で硬く尖った乳首を弾く。
「ん、あっ」
キスから逃れようとする颯馬の唇を追いかけ、再び塞ぐ。颯馬の腰をしっかり引き寄せて胸を弄り続けると、すすり泣くような声が聞こえてきた。
坂城の手が与える感覚はすべてが気持ちのいいものだということを覚えた颯馬は、その快感を持て余して泣くことが多い。それが堪らなく愛おしくて、子供の頃に置いてきたはずの嗜虐心が顔を出してしまう。好きな子の気を引きたくて意地悪をしてしまうという、あの幼い心だ。
「ん、……んっ、んぅ、……っ、は」
颯馬が助けてというように坂城の胸を叩く。ようやく身体を押さえつける力を緩めて唇を離すと、颯馬が荒く息を継ぐ。すかさず手を下肢へと伸ばした。
「――や、ぁ、あっ」
既に硬くなっている颯馬のものをゆるゆると扱く。泡にまみれているせいかすぐにいやらしい音が浴室内に響き渡る。一際強く擦ると、颯馬が悲鳴のような嬌声を上げた。
「あ、あぁっ、……せ、んせ、……それ、やだ……」
「嫌? どうして?」
「……泡、気になる」
いやいやと子供のように首を振る颯馬の額へキスをして、坂城は目を細めた。
「わかったよ」
シャワーで身体を洗い流し、颯馬を立たせて壁へ押しつける。手をついた颯馬が不安そうに振り返った。
「……せ、んせ?」
「そのまま、ちょっと待ってて」
浴室の扉を開け、洗面台の棚の中からボトルを取り出して中身を手のひらで受ける。浴室へ戻り、滑りをまとった指を颯馬の臀部へ這わせると小さな悲鳴が上がった。
「っ、こ、ここでするの?」
「ベッドまで我慢できる?」
「……」
「俺はできない」
言葉にすると一気に情欲がせり上がってくる。逃さないというように颯馬の腰を強く引き寄せると、既に屹立していた自身が颯馬の腰に当たる。びくりと彼の身体が揺れた。
「でも、……このまま? 立ったまま?」
したことないよ、と泣きそうな声で訴えてくる颯馬の背中にキスをして、坂城は指を身体の中へとうずめていった。
颯馬が震えた吐息を零す。不安そうな仕草とは裏腹に、颯馬の身体は坂城の指をすんなりと受け入れていく。もう何度もここへ自分を刻み込んで、坂城に愛されることがどういうことなのかを覚えさせてきた。
恐怖もなく、痛みもなく、ひたすら甘く、底のない快楽の沼へ沈んでいくような感覚。
一度足を踏み入れてしまえば二度と抜け出せない、その奥底で坂城は颯馬を待っていた。
自らの足で、颯馬がここまで来てくれることを。
もう二度と、想う相手を失うことのないように。
それはずっと以前から。本当は、颯馬と初めて会った時からこうなることを望んでいた。
ひた隠しにしていたのに、押し殺していた自分の欲を颯馬が解き放ったのだ。
抑えられるはずがなかった。
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