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「追放せよ」  皇帝の言葉で、2人の兵が、整列した騎士達の視線の中で跪く俺の両腋を抱え上げて立たせる。俺は慌てて上体を乗り出し、声を上げた。 「待ってください。誤解です。私は、私達は」  決して色欲で肌を重ねていたのではない、愛し合っていたのだ――そう弁解する為の言葉は、愛しい声に遮られる。 「その者、サタナエルは」手を後ろ手に組んで背筋を伸ばし、玉座の側に立つ彼は、前を真っ直ぐに見据えた儘、騎士とは何たるかを説く時と同じ毅然とした口調で続けた。「雄弁に私を唆し、鶏姦に堕とそうとした。それ以上言葉を継ごうものなら舌を切り落とせ」 「……ミハさま……」 「汚らわしいその口で、皇帝より戴きし神聖な名を呼ぶな」  目を布で覆われ、視界が真っ黒に染まる。軽蔑の眼差しで俺を見下ろす愛しい人の顔を最後に、扉の閉じる音が耳に無情に響いた。  愛を美徳とする天の国。豊かな大地に恵まれたこの国で暮らす者は、生きとし生けるもの全てを友と呼び、慈しみ愛している。俺も、皇帝に仕える騎士の長、ミハさまを等しく愛していた。  その御姿を初めて拝見したのは、俺がまだ年端も行かぬ子供だった頃。親の使いで街を歩いていると、男の怒号と女の悲鳴が聞こえた。見れば、がたいが大きい農夫がこちらに走ってくる。興奮しているのか、血走った目と、その手に握られた鎌が怖くて、俺はその場に立ち竦んだ。近付く農夫が意味の無い言葉を叫んで振り上げた鎌から血の玉が飛び、顔で弾ける。刃が下ろされる瞬間、目の前が真っ白に染まった。 「大丈夫か」  俺の頬にかかった血を拭い、覗き込む。見開いた儘の視界に映る若い騎士こそ、ミハさまだった。そのことに気付いたのは、件を切っ掛けに目指した騎士になると云う念願が叶った日。騎士長として、新米騎士達の前に立った御姿を拝見した時だ。曇りの無い瞳で前だけを見る凛々しい御顔に、忘れもしない、あのときの騎士の面影を見た瞬間、俺の胸はこれまで感じたことのない高鳴りを覚えた。  最初はただの憧れだった。いつかあの人の様な立派な騎士になりたいと、将来の自分を重ねていた。それが恋に変わったのはいつなのだろう。遠くから見ているだけで良かったのに、段々お傍に居たいと思うようになり、気付けば触れ合いたいと欲をかいていた。想うだけで切なくて、考えるだけで苦しくて、死を覚悟でミハさまに気持ちを打ち明けた。 「有り難う」  優しく微笑み、抱き締めてくれた彼の胸の中で、夢なら覚めなければ良いと思った。初めてのキスをして、初めて肌を重ね、抱かれる度この幸せが永遠に続きますようにと願った。鶏姦が罪になることは解っていたが、これも皇帝が重んずる『愛』であると信じていた。甘かったのだ。騎士達が堕落しないよう監視するラグエルさまに知られてしまい、ミハさまにあんな風に突き放されるなんて、思いもしなかった。

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