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「本当にこの先に番犬など居るのか? そもそも犬にデモゴルゴンに会ったと云って解るのか?」  独り言ちながら屍の中を歩く。どれくらい歩いたのか。目覚めた時は上がっていた太陽はすっかりその姿を隠してしまった。  丸であの男(デモゴルゴン?)の瞳に飲み込まれてしまった様だ。闇を仰ぎ、溜め息を吐く。 「信じて良いのか?」  裸に貞操帯と襤褸だけの、格好からして出鱈目な男だぞ。気配無く前に居たり、鉄枷を指先ひとつで破壊した。言葉も出鱈目ではないのか。ふと彼の云ったことが蘇る。 『君は憧れた人に逢える』 「俺が憧れた人」あの御方以外に誰が居る。空を覆う黒も白に変えてしまいそうな程眩しい姿を脳裏に浮かべる。 「サタナエル」  幻聴にしては、やけにリアルに聞こえた。 「聞こえないのか、サタナエル」  俺は感慨深く目を閉じ、首を横に振る。もう聞く事は出来ないかもしれない、愛しいそのお声を、大事に仕舞う様に、胸に手を当てた。「いいえ、良く聞こえます」 「ならば私を見ないか」  瞼をゆっくり上げ、目を見張った。 「み、ミハさま?」  夢を見ているのか。ミハさまが目の前に立っている。 「本当に……ミハさまなのですか」  失礼ながら、艷めく綺麗な黒髪の天辺から、白いブーツの先迄、まじまじと視線を往復させて訊ねると、フッと彼の口角が綺麗に上がった。 「可笑しな奴だ。私以外に誰が居る」  切れ長の目が、優しく笑いかけて下さった瞬間、胸が熱くなり、視界が滲む。俺は口を押さえ、ほろほろ涙を零しながら、震える声で、愛する彼の名をもう1度呼んだ。返事の代わりに、ふわりと、躰が俺の大好きな逞しい腕に包まれ、もっと逞しい胸に(いだ)かれる。 「済まなかった。私達が愛し合う為には、こうする他無かったのだ」  天の国は、愛を謳いながら同性間での愛は認めなかった。隣人を愛せよと云いながら、隣人が同性ならば愛すなと云う。その国で、監視の目を欺き、愛するなんて無理な話だ。実際俺はラグエルさまに見付かり、罪の烙印を押されてゲヘナに居る。  ふたりが何の身分も持たぬ平民であったなら、駆け落ちと称して不条理で窮屈な国から亡命も出来ただろう。況してミハさまは幾億の騎士の上に立つ御方。国を捨てるなど出来る筈がない。  彼は俺を突き放す振りをして国から追い出し、裸の使者に導かせたそこで人目を憚らずに愛し合おうと、そのような事を仰られた。  そして今、俺達は、ボロボロの小さな家に居る。天の国と比べたら雲泥の差ではあるが、愛する人と生きていけるなら、場所や家など、どんなところでも良かった。  ガウンに着替えられたミハさまが、ベッドに腰を下ろす。脚を組んだだけで、そこは軋んだ。 「サタナエル。何時もの様に、私を良くしてくれるね?」 「勿論です」  喜んで上衣の裾に掛けた手を、あ、と止めて俯く。 「如何したのだ」 「申し訳ありません。俺の躰は汚れてしまいました。貴男に触れる事は出来ないのです」  ミハさまは美しいものを特に好む。俺の容姿も、自分では判らないが、絶世の美しさだと、気に入って下さっていた。なのに、兵に菊門を犯された身で、ミハさまを愛するなど、そんな資格は無い。 「ならば、私で清めれば良かろう。来なさい、サタナエル」 「ミハさま」  なんと神が如きお優しさ。嗚呼、ミハさま……! 「はいっ」  服を全て脱ぎ捨て(と云っても上下の2枚しか着ていないが)、彼の前に跪く。組まれている綺麗な足を両手で掬い上げ、甲にキスをし、親指に舌を這わせて(ふふ)んだ。そうして小指迄を1本ずつ丁寧に舐め上げ、盛り上がった筋肉を舌先でなぞり、開いた大腿の間に顔を埋める。  嗚呼、ミハさまの匂いだ。  肺一杯に吸い込み、小さく息を吐いて浸ると、俺などが触れるのも恐れ多い魔羅を、大事に掌に包んで揉み解し、上に向けた頂から唾液を垂らした。伸ばす様に、ゆっくりゆっくり、手を上下させながら頭部を舐めたり吸ったりして、口に入れる。  徐々に(まこと)の姿を見せはじめるそれは、刀身の様に美しく反り返り、ミハさまそのものを表していて、彼の一部ではなく、独立した彼である、と常思う。云ってしまえば手も足も全部そうだ。全て等しくミハさまであり、俺は彼らをみんな愛している。  呼吸荒く魔羅の首を(ねぶ)りつつ、頭を指先で弄って濡らし、口淫の傍ら自身の菊門を指で拡げた。ミハさまをお待たせしない為の時間短縮法だ。  準備が整い、彼の神々しい迄の魔羅が汚れないようにゴムで包む。そして膝に跨り乗り、菊門と魔羅をキスさせた。  完全たる美を形成した躰にしがみつき、腰をゆっくり落とす。俺の吐く息に喘ぎ声が混ざり、大きくなっていく。体重を掛けると一気にズンと挿さり、悲鳴とも歓喜ともつかぬ叫びを上げ、躰を弓形に反らせて痙攣した。 「あっ……あっ!」  膝の上で跳ねる様に腰を揺り動かす。彼のガウンを剥ぎ取り、筋肉の付いた肩を撫で、首筋に舌を這わせながら、乳頭を指先で弄る。その間にも先走り濡れそぼつ自身の魔羅を握り締め、絶頂に達した。

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