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第7話(社会人)

「告白すらできないんだよ」 「吉武は中学の頃かなりモテてたけど、今はそうでもないってことか?」 「そういう周りの目は、昔からどうでも良かったよ。その評価に値しない人間だから、俺が本当に欲しい人からには、見向きもされなかったんだから」 「興味すら持たれなかたのか」 「ああ、見るからに。今だってそうさ。ざまぁねぇよな」 「何をしたら吉武に対してそんなに無関心でいられるのか俺にはさっぱりだ」 「俺をフォローしても一緒だぞ。お前だって、中学の時途中で付き合いをやめただろ」 「それは・・・・・」 言葉に詰まり、聞き手に回っていた倉田が窮地に陥る。 「だから、嫌味も少し込めて今日あの紙を渡したんだけど」吉武は尚も飲み続ける。 「やっぱり、あの時――」 「ん?聞こえなかった」 「だから、あの時いじめすぎるのは良くなかったな、て」 「どうしたんだ、誰かをいじめた経験でもあるのか」 「お前だよ」 「俺?」 放映され続ける映像の中に、いじめられるに値するものは見当たらない。 となると、吉武の記憶は間違っていて、そのことに悲しさを覚える。これを味わたくないから人付き合いも浅くしてきたというのに。 「お前は無自覚かよ、お人好しすぎるぞ」 「いや、本当に人違いじゃないのか。俺には良い奴という記憶しかない」 全体を通して彼を表すなら、良い奴。仮にも好き――だった相手を嫌なやつだったと思う人間はいないだろう。 「これだから、俺は・・・・・・お前にいつまでたってもドはまりするんだろうな」 「おい、バカにしてるのか」 「いいや?あの紙にも書いたとおり、俺は五月十六日、女を抱いた。それはお前だって知ってるよな」 「正直に答えてくれていい」飲み続けた吉武は未だ酔った様子はない。 「確かに声とか漏れ聞こえたような・・・・・・気はする」 「それを見られた相手がなぜお前だと当てられたのか。わかるか」 考えても検討もつかなかった倉田に、距離を縮めて隣に座ってきた。 自然と鼓動が早くなる。 「俺はこの仕事を選んだ理由が、もともと機械に強いから、だ。おそらく小学生の時点で他人のパソコンにウィルスを仕込めるくらいはできた。しなかっただけだけど。そんな奴が中学生になってパタリと機械を触ることをやめるか?それでいて、小学生の時に考えていた”ハッキング”の好奇心を止められるか?まぁ、普通は思いとどまるだろうな。だけど、俺は機械に強いことに加えて、独占欲も強い。となると、手段を選ばない、ことは別段気にならない」 吉武の目が据わってくる。 心なしか、隣にいた距離もまた更に縮まり、危ない雰囲気がまといだしている。 倉田も流石に脳内に警鐘を鳴らし、身を固める。 「俺はね、本当に欲しい人が手に入っていないって言ったけど、手に入れる予定でもあるんだ。それより・・・・・・お前は人っ気なくて安心してたけど、あの大野とかいう人は要注意人物だな。以前までは月一程度の食事だったのに、今月は毎週行ってるよな。・・・・・・腹立たしい」 「ひっ」 机の下で手首を骨がきしむほど握り締められ、恐怖心を掻き立てる。 机の下という誰の目にもつかない場所でされ、じわじわとメンタルを抉っていく。吉武はこんな人物だったかと思うより先に、恐怖が先行して目の前の獰猛な眼が最奥から見え隠れしていることに動揺する。 吉武が機械に強いことは知らなかった。というより、他のやつも大半は知らない事実だろう。 中学の時の吉武といえば、数学だけが突出して成績の良かった変わり者のイケメンで、情報という授業の際は一人一台パソコンが用意されているためか、みんなは皆の能力を把握はしなかった。 「今月毎週その先輩と食事に行ってるから、もしかしてと思って、万が一に備えて思わず今日、契約を口実にお前に会いに来たんだよ」 「お、俺に・・・・・・?」 「ここまで俺のこと喋ってあげたのに、ほんと、鈍感。倉田、お前が俺の言う”俺が本当に欲しい人”だよ」 ああ、今日は十一月十一日。 この日が特に消えなくなってしまうのだろう――。

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