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第8話(社会人2)
あの飲みから吉武は、倉田を自宅に引き止め続けた。
”養えるだけの貯蓄はある”と、軟禁状態の倉田に毎日仕事を辞めるよう唆した。
有給休暇中の身である倉田は疑問が浮上する。
”なぜ、唆すだけで強制はしないのか”
吉武宅は一等地のマンションで、倉田の勤める携帯会社から一番近くのところにあるらしく、彼曰く「仕事はどこでもできたから、監視に絶好で吉武を満足させられる広さを選んだらここが一番良かったんだ」とにこやかに話していた。
それはもう、花が綻ぶような笑みの振りまきようだ。
脳内では結果オーライ、と映像を短絡的に観ている倉田自身がいるわけで、どうにも、この非日常的な生活が嫌いではなかった。
ほとんどは家に居て、打ち合わせの時だけ外に出ていく吉武の姿。これだけは映像でも、直に見る眼でも慣れなくて。
倉田は気づいていなかった。
「ただいま、倉田」
「お、おかえり」
「なぁに気恥ずかしそうにしてんの。可愛すぎ」
「い、いや、あの」
「ん?」
「その、俺、聞きたいことがあった」
「それ、ここに来てから四日は経ってるのに、今更なこと聞くつもり?俺は居酒屋で一緒に飲んだときも言ったけど、俺の好きだった人は、中学の頃から倉田だけだ」
「何で俺なの」
今でもこのイレギュラーな状態を甘受しているくらいには好きであるのに、吉武の気持ちの大きさが自分のものより小さく思えて心配になる。
急展開に物事は進捗していたけれど、吉武の闇の部分も見せてくれたような気がして、優越感に浸っていたが。
「吉武は俺のことなんでも知ってるかもしれないけど、俺は何も知らない。中学の時の記憶のままだ」
「そんなに俺のこと知りたいと思ってくれてるんだ?」
「それはもちろんだ!俺だって・・・・・・この状況で言うと流されてるとか言うかもしれないけど、ずっと好きだった。好きが消えてくれなかったんだよ・・・・・・」
「だから――勝手に俺がしてきた所業の数々を見逃してくれるんだ?」
「そりゃびっくりしたけど、忘れられてなかったことのほうが、何より嬉しいから」
「すんごい一途じゃん。俺、泣けてくる」言葉とは裏腹に、笑いを噛み殺すような表情が気になるが、それは一瞬のことで、すぐに花弁をひらひらと舞うように綺麗に笑った。
「じゃあ、俺たち長年の時を経て、成就、ということでいいのかな」
「吉武も、好きで居てくれるなら、もう、どんな吉武でも受け入れられる」
既に結構やばいとこまで寛容的なんだけどな、吉武はラフなジャージ姿に着替えて幾分か小さな倉田の手を引いて、ソファに座る。
出迎えまでする倉田はいい嫁になりそうだ、途中経過まで順調すぎる滑り出しに、笑みが口端から溢れていく。
「俺の高校、大学時代のこと教えてもいいんだけどな、何かしてたかと聞かれたら、倉田のストーカーしかしてないからな!」
「プッ!それ、自慢気に話すことじゃないだろう」
「お前のことは俺が誰よりも理解しているつもりだが、でも、今、お前も俺のことを理解してくれている。高校、大学なんかは倉田のストーカーで忙しかったんだから、今と似たようなことばっかしてたからなぁ、人間としては進歩ない俺かも」
「言ってて凹む・・・・・・」本気で悲しそうに頭を抱えるから、思わず吉武の頭を撫でた。
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