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第10話(年の差)
僕は小学六年生。
まだまだ幼さ全開の僕ですが、実は僕、読者諸君にどう見えてるのかはわからないけど、賢いんです。
学校の授業は保育園生レベルに感じるし、かと言って中学生、高校生レベルの学力は眠気覚まし程度にしか感じないから、日本に飛び級という制度があるならとっくに大学に行きたいところなんだよね。
でも、僕は考えた。
これ、無駄に頭がいいオーラなんて醸し出してたら、せっかくの小学生、台無しじゃん?
てことで、僕は可愛げのある小学生を演じることにした。
目的はもちろん「ダイキ」に可愛がってもらうためだ。
ダイキは僕の5つ上の高校二年生。だから、5つもしたの僕を恋愛として見てはくれないのは百も承知。
まぁ、逆に5つ上ならまだわからなかったかもしれないけど、僕はそこらへんのガキとは悪知恵の働き方が違うからね。
これくらいのハードルは低いってもんよ。
「ダイキ~、遅い!」
「あ、悪い悪い、今日はチカちゃんを送ってきたから遅くなっちゃった」
「んもー、僕は小学生、そのチカちゃんって子は、高校生でしょ!僕を優先して迎えに来てよ」
「ごめんなぁ、そんなぶう垂れるなよ~」
「可愛いなぁもう」なんて絆されるの早、てか、僕、可愛いの?
いつもの公園で待ち合わせて、一緒に帰るのが僕達の日課だ。
マンションの「お隣さん」てやつだから、毎日帰るのは当たり前。それを壊されるのが大嫌いな僕は、そのチカちゃんという子を、家に帰ってブラックリストに載せておこうと心に決めてダイキの手を自然と握った。
「ワカナ、昨日の算数のテスト、どうだった?」
「んーと、七十点!」
「小学生なのに何だその点数!ちゃんと勉強してたのか?」
「したよ?でも、勉強したところ、次の単元だった!」
「おいおい・・・・・・まぁワカナらしいな!天然というか、わざとらしいというか」
ダイキはたまに鋭い。
点数のことも、わざと間違えてないかと以前聞かれたことがある。
その時は何とか流したけど、冷や汗モノだったのをよく覚えてる。
「あーでもよく考えたら、単元違うところしててその点数も、なんかすごいな。改めてだけど」
「でしょでしょ」
「俺もノー勉でそのくらいはとってみてぇ」
「ダイキ、馬鹿だもんね」
「辛辣なこと言うなよ・・・・・・俺は努力したって半分も行かないんだ。俺の虚しさは誰にもわからん」
明らかに肩を落とすダイキを見て、うずうずした。僕なら教えてあげられるのに。
でも、ダイキのプライドとか、ダイキに僕を恋愛対象として見てもらうには、まだこの本性は明かすべきじゃない。
タイミングを間違ってしまったら、これ以上の進展は望めないかもしれない、そんなのチカちゃんをドブ川に沈めても激情は収まらないだろう。
僕は慎重派だ、ヘマはしない。
「今日遅くなったの、チカちゃんていう子の家が遠かったの?」
「んー・・・・・・まぁそんなとこだな」
「はっきりしないね、どうなの!」
「ちょぉ、んな近づくなって。お前は俺の彼女以上に彼女らしいこと言うよなー。ほんと、性格だけでも入れ替わってくんねーかな」
「は?」
「ん?ああ、彼女の存在言ってなかったな」
「初耳、てか、僕に黙ってたの。いつからなの」
ヘマしない。
詰め寄って、握った手をぎゅうぎゅうに握りしめて、問いただす。
これでも抑制はしてるつもり。小学生だからこの抑制が限界なだけで、頭では冷静になって策に講じた方が良策だと容易に導き出している。
「いつからって・・・・・・去年かな」
「そんなに前から・・・・・・」
「勘がいいワカナにバレないように、名前を変えてたからな」
「ちょくちょく帰りが遅くなるのって、友達とか女友達との付き合いじゃなかったの」
「ほぼ全部、チカちゃん」
「嘘、ついたんだね」
「小学生にバレるはめんどくさそうだからな」
「めんどくさそう?僕のこと、バカにしてる?」
僕が今まで可愛げのあるキャラクターを演じてたことが全て無駄足で、むしろ足を引っ張ってたなんて。
猫騙しに過ぎなかったのかな。
彼女とイチャイチャするために僕をまたせ、嘘をついて。
年齢が低い分、沸点も大人よりは高くないよ?ダイキ。
「そのチカちゃんのせいで、僕はちょくちょく待たされ、その言い訳で架空の人物、または実在する人物の名を借りてぬらりくらりしてきたわけか。なるほど、それは理解に苦しむよ。僕だって可愛いだけのワカナじゃないからね。憤慨だってするし、何より、彼女の存在を隠してきたことに憎悪すら湧いてくるよ」
「ワカナ――?」
「来て」
家まであと少しの道のりを走って済ませ、僕の部屋に直行する。
「そのチカちゃんて子、どれ」
「はぁ?なんだそれ」
「見てわかるでしょ、ダイキのアルバムだよ。どうせ中学の同級生でしょ。ダイキは意外と心を開くのに時間がかかるからね。一年位でダイキのことを理解してるとほざく女、嫌いでしょう?」
目が点になっているダイキに構わずアルバムを押しつけ、感情的になる。
「誰なの!教えてよ!ねぇ・・・・・・もしかして年下なの!?」
「――落ち着けよ、なんでお前、そんな泣いてんの」
「へ?」
「相変わらずだな」
いつの間にか僕より遥かに大きいダイキの上に跨り、アルバムを押し付け揺さぶっていた。
優しく涙を袖で拭う行動に戸惑いつつ、ハッとなった。
「ぼ、僕、違う――」
「もう遅い。俺のこと好きなのバレバレだから」
終わった。
慎重派の僕が、ヘマをして、自滅だ。
「ずっと前から、気づいてたよ。てか、試すような真似して悪かったな」
「・・・・・・」
「俺な、知ってたんだよ。お前がどんな気持ちで可愛げ振りまいてたのか」
「どうして・・・・・・」
「ワカナは寝顔が可愛い」
「寝顔で分かったの」
「何でそこは小学生並みに硬いんだ?」
「む、違うもん、今混乱してて上手く働かないだけだもん」
「だよな、天才児のワカナくん?」
「――!!」
「寝顔可愛いついでに、お前の経歴はちゃんと全部取ってる母ちゃんに見せてもらった」
ああ、そんなところに落ち度があったなんて。
今回は僕のせいじゃないね。
(急にかけなくなりましたので、この続きは気が向いたら・・・・・・)
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