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第11話(幼馴染)

大学で離れ離れになった幼馴染の陽が、今日俺の大学の寮に転がり込んできた。 「透くん~、久しぶり!全然会えないし、寂しくなったから、来ちゃった」 玄関先で語尾にハート型の何かを振りまくそいつは、明らかに俺の幼馴染であり、男友達でもある。 見間違えようのないほど、耳には合計7つのピアスをつけ、ヘソにもひとつ、それからなかなか気づく人はいないが舌にもつけている。 自分の体に穴を開けるのが快感なんだろうか、高校上がるときにはそんななりをした陽ができあがっていた。 陽は久しぶりに会う俺の驚きをものともせず、ずかずかと部屋に不法侵入してくる。一応俺は許可出していないから、不法侵入扱いだ、当たり前だろう。 「透くんがこの部屋で一人暮らしかぁ、なんか大人だね」 「陽こそ、高校卒業後のこと俺、なんも知らねぇんだけど?」 「うん、僕は今、やっと夢叶えたとこ」 「へぇ・・・・・・て、はぁ!?夢叶えたって、まだ二十歳だろ!?そんな早くに叶っちまっていいのかよ。良かったと言うべきかなんなのか・・・・・・・で、何を叶えたんだ?」 「僕、作家になったよ」 「おお!デビューしたんか」 「デビューは高校の時してたけど、こう、ベストセラーとかみたいに売れっ子じゃなかったんだよね。でも、最近ようやく大きな賞とって、印税も入ってくるようになったし、貯蓄ができるようになりました!」 「ていうのが、僕の近況かな~」なんて部屋を見渡しながらぞんざいに言うことじゃないだろ!? 「随分充実してんのなぁ」 「そうかも、執筆をしているときが、一番の現実逃避なんだ。てか、作家さんて、大抵闇持ってたり痛い人達ばっかりだよ?思ってることを偶像化して文を連ねてるんだよ、思考も歪んできたりは多少あるよ」 「僕がそうだったし」呟いてるところ悪いが、勝手にベッドに上にふんぞり返るの、やめてもらっていいかな。 陽は、俺の部屋に来ると決まってベッドの上に座る。それは一緒に居たときからそうだった。 特等席のようなものになっていたな、と感慨に耽っていると「今日は泊まってくね」唐突に言ってきた。 「お前、そんなこと言って、執筆も締め切りとかあんだろ?(そもそも物書きしてるところすら見たことねぇけど)その様子だと手ぶらじゃん。そんなんで仕事、間に合わねぇだろ?」 「へへん、一作品、仕上げてきました~」 「おかげで三徹くらいしてまーす」気が抜けてきたのか、以前の悪い癖がじわりと影を生んできている。 とりあえず、来客用のコップを取り出し陽の好きなレモンティーを出した。 テーブルの上にある陽のコップをまじまじと見つめ、据わった目でコップに話しかける。 「なんでこのコップは来客用なんでしょうねー、僕とは長年の付き合いがるっていうのに、改まって受け皿なんかまで出しちゃってさ、僕をお客さん扱いするの。ひどくない?」 「何いってんだよ」 「んでもって、僕だけが透くんと親しい気でいたわけなんだよー、こうやって勝手に人のベッドに乗るとかって、普通はしちゃだめじゃん?だけど、透くんと僕は特別だと思ってしてたのに、このコップ出されたら、無言の抵抗みたいで傷つくんだよねー・・・・・・」 「いい加減に――」 俺に向かって話せ、陽の隣に深く座り、こちらを向かせた。 うじうじとコップにケチを付け、愚痴をたらしこむ(眼の前にいる本人のだ)姿は、初めてではないが、久しくてもちゃんと対応の仕方を覚えてる。 「俺が居ない間、落ちてたときはなかったのか?連絡は取り合ってても、会うのは二年ぶりくらいなのに、一回も落ちてないなんて、そんなわけはないよな」 「ううん、稼ぐことに必死で、そんな暇なかった。ていうか――、売れだしたらとたんに忙しくなって、今日まで三十七連勤みたいなものだったし」 「ハハッ。そこらへんのブラック企業に勤めてんのかよ」 休み無しの状態で、ここまで新幹線で乗り過ごさず来たものだ。 県外の大学は新幹線が手っ取り早いし、でも、距離はあるから多少の時間は乗っとかなきゃいけない。 だからか、陽の据わった目が一段とひどいのは。 全く、根詰めるとそのあとの尻拭いはいつも俺なんだから。 これじゃあ、県外に出た意味ねぇし。 「僕はね、将来のために、今稼げるとこまで行きたいの」 「そんなに金に執着するやつだったか?お前」 「んー」 何かを考える素振りを見せて、落ちている陽の口から「透くんを独り占めするためです」敬礼のポーズをとって抜かしやがった。 「高校のときは就職先まで全部一緒に着いていこうって決めてたんだけど、受験生になっても透くんは進路先を教えてくれなかったし、このまま離れたいんだろうなと思って、一時は我慢してあげようと思ったの。僕も準備するのに透くんがいたら、速攻でバレかねなかったし」 たぶん、「俺離れ」させようとしてた時期のことだろうな。なんだかんだ進学先はどうにか沈黙を貫いたけど、他はべったりだったから「陽離れ」もしなきゃならんとも思ってたな。 顔色が悪い陽は一層不気味に見えるほど笑みをこぼして「どうにか三億円、ためたよ。だから、大学やめて僕のところにおいで?」今にも精魂尽き果てそうな体力で懇願する。 腕に出来る限りの力を込めて。 「ね?目標額達成したからご褒美にいいでしょ?もう、離れたくないの!ねぇ、学校、やめてよ」 そう、力なく言い切ると、倒れ込むやつれた身体の陽。 俺もそろそろ倒れる頃かと思って心構えしてて正解だった。 優しく抱きとめて、そのままベッドに寝かせ、しばらく寝顔を見つめてみた。 誰がこの奇抜な見た目の男にここまでの執着心があると考えるだろうか。 俺の好きな本はすべて陽も好きになるし、食べ物の好みもこいつはくまなく確認する。 現在で言うならチーズが食べられなくなったことも、当然のように気づいてくる。 そんなやつが俺のことで高校時代はご乱心だったと聞くと、悪い気がしないのもまだまだ「陽離れ」できてない証拠だ。 何より、落ちた陽に手慣れた扱いを未だしてしまう時点で、慣例のようになっていたと知る。 「けど、学校辞めんのはもったいないから――」 このまま必死に追わせてみようかな。 疲れて眠りこける陽をよそに鬼畜に目覚めそうな俺だった。

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