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第12話(幼馴染)
翌日、いつも通りの時間に家を出る。
もちろん、眠りこけたままの陽は置き去りだ。
その間、陽は家に居続けるのだろうか、そもそも昨日の学校やめろという懇願は覚えているのだろうか。
覚えていたとしても、即答で返事をしたりはしないが、忘れられているのもなんだか俺ばかりが陽を気にかけているようで癪なのだ。
「陽離れ」できない俺と、それに執着する陽。
五十歩百歩なのはいわずもがな、だろうが。
大学について友人と合流し、いつものキャンパスライフを送っていく。
今までより見える景色や浮足立つ感覚がなかなか消えてくれないのは、明らかに陽が自分の家で安心して眠っているからに他ならない。
心が充足感に包まれるのはいつぶりだろう。
寮とは言え、一人暮らしであるから、心細かったりホームシックに陥ったりするのは当然のことだ。
だが、それだけが原因であるなら、今までだって友人を部屋にいれたこともあり、その時に今感じる充足感と同じ感覚に包まれたに違いない。
しかし、そうではないから、陽という存在の大きさ、俺がいかに「陽離れ」できていないのか痛感する。
家を出る時でさえ、寂しさを感じたのだから、もう、陽の懇願した件については、俺の身の収まりどころを確保することができれば、いつだって陽の隣に居続けることを選択した。
昨夜の必死に追わせてみたいという願望も、今思えば、そうしてくれることで俺自身が安心するからだと安易な答えにたどり着いた。
そして、あまりにもしっくりきて、言葉を失うほどだった。
陽が感じている以上に、俺が陽を渇望し、俺が離したくなくなった。
これが胸の中で、すとん、となんの絡まりもなく落ちていくさまを目の前で見ているかのような音がカランとなる。氷が溶けコップの底に落ちた。
大学にいる間、俺が携帯を確認することはなかった。
友人と駅で別れ、帰路につく。
きっと陽がまだ疲れて帰っていることはないだろう、そんな心許ない自信が足取りを軽くする。
軽くなった分だけ、家につくことのもどかしさが倍増していく。
まだつかない、あと一駅、あと少し、あと階段を登るだけ――。
そうしてついた我が家だけど、急に先刻まで感じていた暖かさ、いうなれば心のゆとりというものが、ふと、なくなった。
嫌な予感がした、といってもいい。
単純に普段みる玄関と同じか、それ以下の冷気を帯びている。
俺は嫌な汗をにじむのを確かに感じながら、恐る恐る玄関ドアを開けてみた。
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