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第13話(幼馴染)

虚勢を張って玄関のドアを開けてみたところで、嫌な予感というものは拭うことはできない。 「無」の空間におおよその察しがつく。 靴もなければ、人開いたという気配すらない。おまけに部屋の明かりがついてないとなれば、俺の見解もあらかた正解ということだろう。 おそらく、昨日の今日で俺は陽を置いて学校へ行った、という事実に呆れて、諦めたのだろう。 追いかけるのも楽じゃない、てな。 陰の空間を作り出している今の俺のいるリビングに、俺一人が腸を煮え繰り返している。 この怒りの理由もわからず、出るわけのない電話をかけ、案の定電源を切られていることにさらに憤慨しながら、家を出た。 高校卒業して地元を離れた俺だったが、俺達は現在住んでいる住所は知っていた。 一時間ほど電車に揺られてついた地元は、何も変わっちゃいなかった。 変わろうとした俺だけが、地元を離れ、俺だけが結局人としても変われず戻ってきたような感覚だ。 あながち間違ではない。 だが、そこで引っ込むようならこの怒りもすぐに修まっていよう。 しかし、そうではないから、陽と俺が育った地元にまで帰ってきたんだ。 迷うことなく目的まで急ぐ。 ようやく着いた陽の住む家は、お世辞にもいいところとは言えないボロアパートで。 トタン屋根一枚で雨風をしのいでいるような貧乏感満載のアパートに、陽が住んでいる。 本当に金を貯蓄に回すために、どこまでも切り詰めてきたのだろう。 相当本気だったのだと知ると、今までの怒りが鎮火していった。 振り回したのは、高校時代の頃から今も俺だった。 ここは怒りで引き戻すのではなく、謝罪からするべきではないか、そう思えてきた。 玄関前で冷静になれたところでインターフォン、がないからノックをする。 応答もなければ物音すらしない。 不在なのか。 ここで諦めるわけにはいかないから、その場に座り込み陽を待つことにした。 それからどれほど時間がたっただろう。 夜中を通り越し、夜も更けてきた朝焼けの中、一人の男がこちらのアパートに向かって歩いてくる。 もしかして陽なのかと重い腰を上げ、再度彼の存在を確認しようと思ったら、そいつは一人ではなくもう一人女が居て、隣を歩いていたのだからあれは陽ではない、そう確信してしまった。 が、なぜかその男女から目が離せず、近づいてくる二人を眺めるように見ていた。 どうやら俺のいるアパートの住人のようだ、歩いてくる方角的にここしかあり得ない。 そこまで距離が近付いて、思わず俺は息を止めた。 あの男女の男の方は、風貌から見間違えるはずのない陽だった。 昨日の今日で今までの執着すべてをないがしろにしたというのか。 お門違いにも程がある何度目かの怒りを頻発させて覚醒してしまった脳は、俺を興奮状態に陥れ、まっすぐこちらへ向かってくる二人を陽の家の玄関前で待ち伏せした。

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