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第15話 ユウト
あいつの母が倒れた
なんで悲しい顔ができるんだ、俺なんてなんとも感じないのに
きっと愛されたんだな…
病院についたのに車のなかで動かない
そのくせ「兄さんと呼んでくれないか」なんて言い出した
ふざけてるだってこいつは他人……心が震えている
他人のはずなのに、誰にも愛されていないのに
こいつだって俺のこと
俺は頷いてやった
どうせ今日だけだ…あいつの母が倒れたから仕方なく呼ぶだけで
ようやく車から出ていった、俺もドアを開ける
病院にはいるとあいつの足取りが早くなった
ある部屋の前で名札を見る
首をかしげていた、ナースを呼んで何か話すとすぐに走り出した
俺は後をついていくしかない
付いたのは隔離室
全員がマスクをつけて色んな機械で延命措置をしている
酸素マスクで顔がよく見えないが優しそうだ
眠っているのか何も言おうとしない
いや誰が来たのかも分かっていないのだろう
ふとあいつを見ると、あいつはその女の手を握っていた
「母よユウトだ、ほら来てくれた…実はな兄さんと呼んでくれるようになったんだよ、ほら目を開けてしっかり見てほしい…見れなくとも声だけでも、ほらユウト私を……」
あいつの手が震えていた
必死に笑顔をつくって見せているが唇は小刻みに震えている
女は動かない…まぶたさえも
これなら言ったって気付かない
「兄さん」
俺はすぐに後ろを向いた、あいつの顔をこれ以上見ていられない
あいつはずっと女を呼んでいた
声が震えていく、大きくなっていく
その声で俺の一世一代の勇気がかきけされた
あいつの泣き崩れる音とひとつの音だけが響いた
その音は嫌に俺の胸を突き刺した
きっともっとはやく言ってあげれば、兄は喜んだのだろうか
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