15 / 16

第15話 ユウト

あいつの母が倒れた なんで悲しい顔ができるんだ、俺なんてなんとも感じないのに きっと愛されたんだな… 病院についたのに車のなかで動かない そのくせ「兄さんと呼んでくれないか」なんて言い出した ふざけてるだってこいつは他人……心が震えている 他人のはずなのに、誰にも愛されていないのに こいつだって俺のこと 俺は頷いてやった どうせ今日だけだ…あいつの母が倒れたから仕方なく呼ぶだけで ようやく車から出ていった、俺もドアを開ける 病院にはいるとあいつの足取りが早くなった ある部屋の前で名札を見る 首をかしげていた、ナースを呼んで何か話すとすぐに走り出した 俺は後をついていくしかない 付いたのは隔離室 全員がマスクをつけて色んな機械で延命措置をしている 酸素マスクで顔がよく見えないが優しそうだ 眠っているのか何も言おうとしない いや誰が来たのかも分かっていないのだろう ふとあいつを見ると、あいつはその女の手を握っていた 「母よユウトだ、ほら来てくれた…実はな兄さんと呼んでくれるようになったんだよ、ほら目を開けてしっかり見てほしい…見れなくとも声だけでも、ほらユウト私を……」 あいつの手が震えていた 必死に笑顔をつくって見せているが唇は小刻みに震えている 女は動かない…まぶたさえも これなら言ったって気付かない 「兄さん」 俺はすぐに後ろを向いた、あいつの顔をこれ以上見ていられない あいつはずっと女を呼んでいた 声が震えていく、大きくなっていく その声で俺の一世一代の勇気がかきけされた あいつの泣き崩れる音とひとつの音だけが響いた その音は嫌に俺の胸を突き刺した きっともっとはやく言ってあげれば、兄は喜んだのだろうか

ともだちにシェアしよう!