17 / 32

第17話

鬼は腰布の下に何もつけておらず、そこには桃太郎の指吸いで興奮した半勃ちの摩羅が鎮座しておりました。夢にまで見た鬼の摩羅です。 直前まで興奮に息を喘がせていた桃太郎でしたが、しかし、その摩羅を目にした途端、大粒の涙をぼろぼろとこぼし、わっと泣き出しました。 興奮した様子でしなだれかかってきていた桃太郎が急に泣き出したので、鬼はおろおろしてしまいます。声を上げて泣きながらも、持ち上げた腰布を離さず、股間を見つめ続ける桃太郎に狼狽するのは当然のことです。 鬼は困惑しながらも、桃太郎が脱ぎ捨てた着物を取り上げ、いそいそと着せかけてやります。次いで袴も掴みましたが、どのように着せるものかわからなかった様子で、仕方が無く着物だけを帯で緩く結んで体を隠してやりました。合わせも逆で、臍まで見えそうなほどに肌蹴(はだけ)た着せ方ではありますが、桃太郎にも鬼の親切心は伝わってきます。だからこそ、桃太郎は余計に悲しくて涙をこらえることができませんでした。 ――こんなに友好的で、誘惑にも弱く、いくらでも摩羅を吸わせてくれそうなのに。なのに、なのに…… ――でかすぎて口に入らんではないかぁっ! 初めて見た鬼の摩羅は、口ぎりぎりの太さだった平次の摩羅より尚太く、喉を突く理想的な長さだった弥助の摩羅より尚長く、一目で桃太郎の口には入りきらないことが見て取れました。桃太郎はひたすら大きな摩羅を夢見ておりましたが、自分の口の開きに限界があることは全く考えの外だったのです。 先程の鬼の反応を見る限り、摩羅を擦り、先端を舐めて、子種を吸い出すことはできましょう。けれど、桃太郎はもう食事のためだけに摩羅を吸うのでは、とっくに飽き足らなくなっておりました。子種を飲むだけであれば、村の爺達でも弁当達でもよいのですから。 おいおいと泣かれて困り果てた鬼は、そっと桃太郎を抱き上げました。桃太郎の背を支える手の指先に、桃太郎の袴と荷物と雉を引っかけ、のしのしと歩き出します。危険はないと理解したようで、犬と猿もすんなりその後に続きました。 しばらく岩場を歩きますと、こんもりとした小さな森にたどり着きました。森に入るとすぐ、木を地面に打ち込み縄を巡らせた柵があり、その中には雌の雉が三羽飼われておりました。それぞれの雉は片足に縄が結ばれ、その端は杭に繋がれておりますが、十分な長さがあるので雉たちは悠々と過ごしているように見えます。 「モモタロサンガ オスヲクレマシタヨ。タマゴ ヨロシク」 鬼は桃太郎をそっと地面に下してからそう雉たちに声をかけ、権座の雉の両足の縄を解き、片足に結び直すと、雌たちと同じように杭に繋ぎました。その最中に権座の雉が必死で鬼の手を突いておりましたが、鬼はおそらく痛いよ駄目だよというような意味の言葉で優しく窘め、怒りもしませんでした。 鬼に食われる恐怖に子を残そうとする本能が昂ったのか、雉は奇声を上げて次々と雌に躍り掛かり、上に乗っかかっています。 権座にせっかく貰った雉でしたので、すぐに殺されるわけではないのは喜ばしいことです。涙が枯れない状態ながらも、権座の分まで子作りを励めよと心の中で声援を送り、桃太郎は鬼が持ってくれていた旅の荷物から黍団子を取り出して、ぽんっと雉に投げてやりました。 もちろん権座の雉は雌に夢中でしたが、まぁ気づいたら食べるでしょう。 それを見ていた猿と犬が物欲しそうにしておりましたので、二匹にも黍団子を放り投げ、ここの雉たちを獲ってはいけないと念のため言い聞かせます。 おとなしく黍団子を食べる猿と犬を物珍しそうに見ていた鬼は、そっと片手を差し出して二匹を撫でようとしましたが、猿にはひっかかれ、犬にはがぶりと噛まれてしまいました。 悲しそうな顔をしながら「モモタロサン スゴイネ」と呟く鬼は、その図体からは想像もつかないほど繊細な性質(たち)のようでした。 さて、涙をいまだにほろほろと零す桃太郎ではありましたが、先ほど目にした黄鬼の摩羅が脳裏に焼き付いて離れません。どうにか飲み込めないものかと、泣きながら大口を開け、顎を外そうと両手で引っ張ったりなどしております。 大口を開けて舌を思い切り突き出せばその分舌が薄くなり、口の上下の幅はわずかながら広がります。しかし如何せん唇の両端は裂けそうになりますし、なにより両耳の下辺りが痛み、それ以上はびくとも顎が動きません。 とても悲しいのに、大口を無理に開けておりますと、摩羅を喉の奥に突き立てられる感触を思い出し、桃太郎の目はとろりとしてきてしまいます。この口さえもっと開けば、あのずっしりとした摩羅でいいだけ喉を突いてもらえるのに。あんなに巨大な物を埋め込まれ、あの引き締まった腰を使って抜き差しされ、奥を突かれる悦びはいかほどのものか。 それが叶わないとわかっているだけに、鮮明に思い描けるその情景は桃太郎の胸を焦がし、後から後から涙を零させます。 それを不思議そうに眺めつつ、黄鬼は優しく背を抱いて、大きな帆布で作ったと思しき天幕に桃太郎を案内しました。 するとそこには、刃物で木片に何やら刻んでいる二匹の鬼がおりました。二匹の鬼は口々に、桃太郎にはわからない言葉で驚いた様子を示しています。しかし黄鬼が何事かを喋ると二匹とも黙り、桃太郎と二匹の鬼はしげしげとお互いを見遣りました。 真っ赤な波打つ髪を腰まで伸ばした鬼は黄鬼と同じように赤らんだ肌をしており、目と体毛は茶色で、黄鬼より更に体が大きく見えます。黄鬼を初めて見た時は恐ろしく思いましたが、比べてみればこの赤毛の鬼の方がより筋肉質で猛々しい雰囲気です。黄鬼より更に着物は襤褸(ぼろ)で、股間を隠す腰布は小さく、尻は丸出しになっております。いかにも鬼という雰囲気に摩羅への期待を掻き立てられ、桃太郎の胸は現金にもまた高鳴りました。 一方、青い目をした鬼は他の二匹とは異なり、少し黄味がかった人間に近い肌の色をしており、三匹の中で一番小柄です。それでも桃太郎よりは随分大きいのですが、大男と言われるような人間であれば敵う者もおりそうです。灰色の髪は短くざんばらに刈られ、物珍しそうに桃太郎を見る青い目にはどこか幼さが感じられました。この青目の鬼の摩羅であれば口に入るやも、と期待がもてます。 まだ見ぬ新しい鬼の摩羅を前に、いつの間にか泣き止んでいた単純な桃太郎です。そんな事情とは知らず、黄鬼が優しく話しかけました。

ともだちにシェアしよう!