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第18話

「モモタロサン ナカナイ ヨカッタ。コノ フタリモ キ××××××。ナマエハ アー××× ト ロー××× デス」 おそらく二匹の鬼を紹介してくれているのでしょうが、舌がぐるぐるしたような訛りで一向に聞き取れません。桃太郎は金毛が黄鬼で赤毛が赤鬼で青目が青鬼だと既に勝手に決めておりましたので、うんうんと頷きながら適当に聞き流します。 「ワタシタチ トオクカラ キマシタ……」 黄鬼がしんみりした調子で話し始めましたが、桃太郎はどうやって赤鬼と青鬼の摩羅を吟味しようかとばかり考えておりましたので、もちろん話半分です。 鬼曰く―― 自分たちは遠い国から正しい教えを広めるためにやってきたが、船が難破してしまった。多くの者が溺れ死に、この島に生きてたどり着いたのはこの三人だけ。教えを広めるためにわずかながらこの土地の言葉を覚えており、たまたま島にやってきた漁師に助けを求めたが、見た目の違いからか恐れられて逃げられてしまった。以来、誰もこの島には来ていない。島の生き物や植物を食べて飢えを凌いできたが、ほとんどが岩場の島なので食糧が乏しい。これも神の与えた試練と思い、清廉な暮らしを心がけているがなんとも辛い日々だ―― 黄鬼は大体このようなことを話していたのですが、桃太郎にはまるで興味のないことでした。鬼がどこからやってきた何者であろうが、そんなことはどうでもいいのです。もったいぶらず早ぅ摩羅を見せてみぃと、美男子であっても許されない下劣なことしか考えておりません。 「何やら遠くからいらして大変な思いをされたようですね。ほんにお気の毒様でございます。それではご存じないでしょうが、私の国元では遠方よりの客人をもてなす友好の証として尺八を吹く風習がございます。先ほどは黄鬼さんのお摩羅のあまりの大きさに少々取り乱しもいたしましたが、今一度、皆様に私の友好の意を示す機会を頂けませんか」 ごくごく真面目な顔で自分の故郷に卑猥なとんでもない風習を捏造した桃太郎でしたが、つらつらと話すのを理解できるほど鬼たちは言葉が達者ではないようです。「キオニサン?」「シャクハチ?」「オマラ?」と揃って首をかしげております。 これでは埒が明かぬと、鬼たちの股間を順に指で差しながら「摩羅」と言えば、鬼たちは一様にぎょっとした表情をしました。 それに構わず、右手で筒を作って上下に動かし、左手で玉を揉み擦る動きをしつつ、舌を出して舐め吸いしゃぶる身振りまでして「尺八」と説明してやると、鬼たちは「オウ××××××!」「××××!」と阿鼻叫喚し、胸元で指先を十字に動かしたり、手を組み合わせて祈る振りをしたりしております。 もしやこれは権座と同じ展開ではと、立ち込める暗雲に眉根を寄せる桃太郎ですが、黄鬼は先ほど桃太郎に指先を吸われて確かに摩羅を大きくしておりました。ということは、鬼たちは集団になると途端に色事に難色を示す習性があるのかもしれません。 ――面倒臭い。 生まれてこの方摩羅だけを頼りに生きてきた桃太郎です。色事に恥じらいなど持とうはずがございません。 「なぜ尺八がいかんのじゃ」 どうせ丁寧に話しても通じはせぬと、ぞんざいな口調で苛立たしげに尋ねますと、鬼たちは口ぐちに「オトコト オトコ ダメ」「カミ ユルサナイ」「オシエ ダイジ」と子供に言い聞かせるような調子で答えます。 どうやら鬼たちの言う正しい教えとやらでは、男が男の摩羅を吸ってはいけないらしいことがわかりましたが、もちろん桃太郎にとってはそんな教えは糞食らえです。摩羅を吸ってはいけないのなら、礼儀正しく椀に子種を注いでもらえとでも言うつもりなのでしょうか。 「その正しい教えとやらがそなたらをこの島から救い出してくれるのか、馬鹿馬鹿しい」 芯から馬鹿にした調子で言ったのが伝わったのか、鬼たちは一様に衝撃を受け、呆然としております。 「心地よいことの一つも許さぬとは、そなたらのいう神とは随分意地悪で狭量じゃの。そもそも女人もおらん島で、子種を溜めこんでいかがする。男と男の何が問題か。私は子種が飲める、そなたらは心地よい。互いによいことではないか」 言葉が完全にはわからずとも、このようなことはなんとなく通じるものです。鬼たちは顔を見合わせたのち、小声でぼそぼそと何やら相談し始めました。互いに何かを言わせようと押し付け合っている様子が伺えます。三匹とも尺八に興味はあるものの、自ら率先して教えに背くのは嫌だとみえます。 図体ばかりでかくて胆の据わらぬやつらよと、桃太郎は天幕の入り口からこちらを覗き込んでいた猿と犬を呼び寄せました。そして、よぅく見ていろと言うが早いか、猿の摩羅にむしゃぶりつきました。

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