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伊織(3)
教授が、いくつか持ってきてくれたカットソーやシャツやパンツ類は、どれを組み合わせても無難にまとめられる感じの、シンプルで定番のデザインだった。
だだ少し気になったのは、どれも真新しく、袖を通した感じがしない。
「どれでも、好きなのを選んでいいよ」
「えっと……じゃあ……」
首元が涼しそうな、VネックのTシャツに手を伸ばそうとしたところで、不意に教授の指先が、僕の首筋に触れてきた。
「……っ……」
教授の顔が至近距離に近づいて、ちょうど喉仏の辺りで指先がそっと滑る感触に、思わず首を竦めてしまう。
「……これは……さっき俺が……」
そこまで言って、教授は言葉を詰まらせた。
「え?」
最初は何の事か分からなくて自分の首を触ろうとしたら、ちょうどそこに触れていた教授の手に、意図せず自分の手を重ねてしまった。
「……ぁ」
反射的に離そうとした僕の手は、教授に掴まれ、そのまま引き寄せられる。
崩れるように逞しい胸に倒れ込むと、教授はずり落ちそうになった毛布ごと、僕の身体を抱きとめてくれた。
教授の匂いが、フワリと鼻腔を擽っていく。
――先生……?
どうしてそうしてくれたのか分からなかったけど、その瞬間は、ただただ嬉しくて、僕も教授の背中に手を回した。
だけど……。
「……すまない、本当に酷い事をしてしまった」
頭の上から落ちてきた言葉に、途端に、胸の奥が切なく軋む。
それは、さっき僕を抱いたこと?
それとも、僕に潤さんを重ねて見てしまったこと?
きっと……そのどちらもなのかもしれない。
「……なんで……どうして謝るんですか……」
腕の中で顔を上げると、心配そうな眼差しに見つめられた。
教授が僅かに身体を離して、また僕の首元に触れる。
そこで漸く僕は思い出した。
――あ……もしかして……。
それは、教授が我を失って、僕の首を絞めた痕なのだろう。
「すまない。本当に……」
「大丈夫ですよ。こんなのすぐ消えます」
すると、教授は真剣な瞳で僕と視線を合わせた。
「痛みとか痕とか、それも申し訳なくて、謝罪の言葉も見つからないけど、それだけじゃなくて……」
――それだけじゃない……。
嫌な予感が頭を過ぎる。
教授の次の言葉を訊くのが怖かった。身体を繋げた事を後悔だけはしてほしくない。
教授は項垂れるように頭を下げて、謝罪の言葉を口にする。
でもそれは、僕の予想していたものとは、少し違っていた。
「首を絞めるなんて……本当にどうかしていた。赦してほしい」
そして、その後に続けられた言葉は、辛そうで哀しい響きを纏っているのに、僕の胸の中は熱いものでいっぱいになってしまった。
「……大切に想っている人を、もう二度と失くしたくないと思っているのに……」
――“ 大切に想っている人”
それは僕のことを、潤さんと同じくらいに大切だと想ってくれているという事なのだろうか。
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