24 / 138
伊織(10)
「カズヤさん、ちょっと話があるんだけど……」
「……え? 何、改まって……」
火加減を見ていたカズヤさんが顔を上げ、カウンター越しに視線を合わせた。
「ご飯食べながらでもいい? それとも食べる前に話そうか?」
「カズヤさんが良ければ、食べながらでいいから聞いてくれる?」
「もちろん。じゃぁ、あとはしじみのお味噌汁を温め直すだけだから、すぐご飯にしよう」
「あ、じゃあ、僕も手伝う」
洗面所で手を洗ってから、僕もキッチンに入って、カップボードから今夜のメニューに合う皿やどんぶりを出して盛り付けていく。
今日のメニューは、うな丼が主役。
炊き立てのご飯をどんぶりによそってカズヤさんに渡すと、カズヤさんはご飯の上にまずタレを少しかけて、その上に食べやすい大きさに切った、ふんわりと肉厚なうなぎをのせていく。
「ここの店の秘伝のタレがまた美味しいんだよ」
そう言いながら、最後に蒲焼きの上からもう一度タレをかける。
「伊織も、山椒は要らないんだったね?」
「うん、要らない」
僕が応えると、カズヤさんは「ぼくと同じだね」と、嬉しそうににっこりと微笑んだ。
僕が高校二年の夏から一緒に暮らし始めたから、それまでお互いのことは何も知らなかった。
なのに、不思議と何故か好みや癖などがどこか似ている。
「やっぱり親子なんだね」と、共通点を見つける度に、カズヤさんは大袈裟なくらいに喜んでいた。
「さぁ、じゃ食べようか」
副菜にきゅうりとタコの酢の物。
それにしじみの味噌汁。
盛り付けを全て終え、テーブルに向かい合って座って、同時にいただきますと手を合わせる。
「あ……カズヤさん、ビールは? 今日は飲まないの?」
「ん? ああ、後でいいんだ。まずは伊織の大事な話を聞かないとね」
――僕は、“大事な……”なんて、ひと言も言ってないのに……。
カズヤさんは、僕が何を言い出すのか、何となく分かっているような気がした。
でも、無理に話を聞き出そうとする様子もなく、普段と変わらない、ごく普通に二人で食卓を囲んでいる。いつもの空気だ。
ふんわり柔らかい鰻を、ほぼ同時に口に運んで、「美味しい」と、ほぼ同時に言葉が漏れて、お互い顔を見合わせて吹き出しそうになる。
ともだちにシェアしよう!