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伊織(10)

「カズヤさん、ちょっと話があるんだけど……」 「……え? 何、改まって……」  火加減を見ていたカズヤさんが顔を上げ、カウンター越しに視線を合わせた。 「ご飯食べながらでもいい? それとも食べる前に話そうか?」 「カズヤさんが良ければ、食べながらでいいから聞いてくれる?」 「もちろん。じゃぁ、あとはしじみのお味噌汁を温め直すだけだから、すぐご飯にしよう」 「あ、じゃあ、僕も手伝う」  洗面所で手を洗ってから、僕もキッチンに入って、カップボードから今夜のメニューに合う皿やどんぶりを出して盛り付けていく。  今日のメニューは、うな丼が主役。  炊き立てのご飯をどんぶりによそってカズヤさんに渡すと、カズヤさんはご飯の上にまずタレを少しかけて、その上に食べやすい大きさに切った、ふんわりと肉厚なうなぎをのせていく。 「ここの店の秘伝のタレがまた美味しいんだよ」  そう言いながら、最後に蒲焼きの上からもう一度タレをかける。 「伊織も、山椒は要らないんだったね?」 「うん、要らない」  僕が応えると、カズヤさんは「ぼくと同じだね」と、嬉しそうににっこりと微笑んだ。  僕が高校二年の夏から一緒に暮らし始めたから、それまでお互いのことは何も知らなかった。  なのに、不思議と何故か好みや癖などがどこか似ている。 「やっぱり親子なんだね」と、共通点を見つける度に、カズヤさんは大袈裟なくらいに喜んでいた。 「さぁ、じゃ食べようか」  副菜にきゅうりとタコの酢の物。  それにしじみの味噌汁。  盛り付けを全て終え、テーブルに向かい合って座って、同時にいただきますと手を合わせる。 「あ……カズヤさん、ビールは? 今日は飲まないの?」 「ん? ああ、後でいいんだ。まずは伊織の大事な話を聞かないとね」  ――僕は、“大事な……”なんて、ひと言も言ってないのに……。  カズヤさんは、僕が何を言い出すのか、何となく分かっているような気がした。  でも、無理に話を聞き出そうとする様子もなく、普段と変わらない、ごく普通に二人で食卓を囲んでいる。いつもの空気だ。  ふんわり柔らかい鰻を、ほぼ同時に口に運んで、「美味しい」と、ほぼ同時に言葉が漏れて、お互い顔を見合わせて吹き出しそうになる。

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