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伊織(35)*

 勢いのまま強引に押し付けただけの唇を離し、鼻先が触れ合う距離で教授の濡れた瞳と視線を絡めた。 「僕はいつでも傍にいるよ……」    高校生だった潤さんは、どんな声で、どんな風に教授に話しかけたんだろう。  僕には想像の中の潤さんを真似ることしかできないけど……。 「……だから忘れたりなんかしないで」  教授の肩に顎をのせて、耳元にそう囁いた。  僕の後ろの壁には、Aquarius(アクエリアス)の絵が立てかけられている。  教授の方からは、その絵の全体が見えているだろう。 「ずっと愛してるよ……」  ――先生……見えてますか? 潤さんの姿が。この言葉は全部、潤さんが先生に伝えたい気持ちですよ。  僕には感じる。背後にある大きな存在を。水を纏った少年の儚く切ない想いを。 「俺も……愛してる……」  僕の頭の上にキスをくれながら、落とされた言葉に胸が締め付けられる。  細く長い指に顎を捕えられ、顔を上げれば、柔らかく唇が重ねられて目頭が熱くなった。  優しく唇を啄ばみながら、教授が視線を合わせてくるのが怖い。教授が、僕を僕だと気づいてしまいそうで。  気付かれないように、僕の方から角度を変えて唇を重ね直し、ゆっくりと教授を床へと押し倒した。  そのまま覆い被さるようにして、もっと深いキスを仕掛けていく。  強請るように上唇を吸い上げて、教授の閉じた唇を舌でなぞる。  押し倒した時に、教授は少し驚いた表情を見せたけど、僅かに開いた唇の隙間から舌を滑り込ませていけば、熱い舌が絡みつき、僕を迎え入れてくれた。  お互いの咥内から吐き出される呼気は、あっという間に熱を帯び始め、肌の温度も上がってくる。  背中に回った教授の腕に引き寄せられて身体が密着すると、興奮度が伝わってきた。  熱くて、硬くて、ゾクゾクしてしまう。  じゅるっと絡めた舌を吸い上げられて、鋭く甘い快感が背中を駆け抜けていく。 「……っ…………ぅ、ん……」  合わせた唇の隙間から思わず甘い声を漏らせば、教授の手が優しく髪を撫で、ぎゅっと背中を抱きしめてくれる。  次の瞬間、くるりと反転させられて視界が回り、教授の顔の向こうに美しい天然杢目の天井が見えた。 「愛してる……」  甘い声で囁かれると、胸に熱いものが込み上げてくる。  教授に、こんなに愛されている潤さんが羨ましくて、妬ましい。それでも僕は潤さんの気持ちを代わりに言葉にする。  その行為は、自分の気持ちと同化して、僕は潤さんとひとつになれる気がするから。 「僕も……愛してるよ」  声に出した途端に、また唇を重ねられた。  今度は、教授の舌が僕の唇を割り、咥内へ押し入ってくる。  教授の咥内への愛撫は、優しくて、甘くて、激しい。  最初はゆっくりと歯列をなぞり、舌を柔らかく絡めて根元を擽り、上顎を撫でていく。  混じり合うお互いの唾液が、咥内に甘い熱を籠らせた。  触れられたところが、どこも気持ちよくて……。  身体の力が抜けていく頃に、教授が重ね合わせる唇の角度を変え、もっと深いキスを仕掛けてくる。  激しくて、甘くて、求められて。 「…………ふぁ……ッ…………ん、う……」  もっと深く貪られ、もっと深く愛される。

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