55 / 138

伊織(41)*

 ――――伊織。  確かに今、教授はそう呼んでくれたと思う。  僕は潤さんを演じてるつもりだったのに、どこで現実に戻ってしまったんだろう?  考える間も無く、教授が僕の脚を抱え上げ、グッと腰を押し付けてくる。  狭い入口をこじ開けるように、一番太い部分が埋め込まれる感触に思わず声を上げてしまう。 「……あっ、……っ」  少し苦しいけど、ゾクゾクする。この後に与えられる悦びを知っているから。  昨日、教授の形を覚えたばかりの、僕の中の細い路は、まるで昔から馴染んでいたみたいに、硬い灼熱を受け入れていく。  ゆっくりと教授の形に広げられ、教授しか知らない路に変えられて、ぴったりとはまって蕩けて、混じり合う。 「……っ」  最奥まで呑み込まされた猛りの熱い脈動が生々しく伝わってきて、腹の奥がキュウッと疼いた。その瞬間、教授が吐息と共に切なげな声を零す。 「……伊織」  呼ばれた途端、また腹の奥が疼いて、最奥の狭いところで無意識に教授を締め付けてしまう。 「……っ、せんせ……」  名前を呼ばれただけなのに、身体が勝手に感じて、潤さんを演じていることも忘れてしまう。  快感に似たその感覚が、甘く身体を火照らせた。  のし掛かってくる身体の重み。  重なり合い密着する、汗ばんだ熱い肌。  唇を奪われ、滑り込んでくる熱い舌。  深い口づけを交わしながら、色情を浮かべた漆黒の瞳に見つめられる。  どの行為にも、自分が愛されているような錯覚をしてしまう。  教授が今愛しているのは、潤さんじゃなくて、僕?  僕でいいの?  潤さんじゃなくてもいいの? 「――あ……」  中が馴染むのを待っていた教授の猛りが、突然最奥をグンッと突いてくる。  まるで僕の意識を呼び起こすように。  ――何を考えてるんだ? と問うように。  そして身体の中から、硬い灼熱か引き抜かれていく。 「――っ、ああっ、んッ」  僕の中に空洞をつくって出ていく喪失感に、肉襞が教授を引き留めるように蠢き、絡みつく。  必死に手を伸ばして教授の身体にしがみ付くと、また奥へと戻ってきてくれる。 「――ん、っああ……」  腹の中いっぱいに埋め尽くされて、奥を突かれて、またギリギリまで引き抜かれて、思わず追いかけるように腰を浮かせた。  ふっ……と、小さく笑う声が落ちてきた次の瞬間、教授が僕の腰を両手で掴み、挿入の角度を変えて、浅いところを突き上げてくる。 「――っぁ……や……あっ、ん」  そこを一回突かれただけなのに、鋭い痺れが一瞬で体内を駆け抜けていく。  身体が勝手にビクンと跳ねて、僕は背中を反らしながら悲鳴のような嬌声を上げてしまう。 「……っ、あ、っだめ……ふぁ、やぁぁっ」  硬い部分で擦りつけるように、何度も同じところを抉られて、さっき出したばかりなのに、また吐精感が込み上げてくる。  同時に、それとは別の怖いほどの快感に、全身が侵食されていった。

ともだちにシェアしよう!