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かりそめ(2)
*
教授が僕に用意してくれていた浴衣は、白地に多色染めの、よろけ格子柄。
僕は染織を専攻しているわけではないけれど、裏表のないこの生地が注染だというのは分かる。
きっとこれも教授が染めたものに違いなかった。
丈は丁度良いけれど、多色染めの青系のよろけ格子は、もうすぐ22歳になる僕には少し幼い感じがする。
ふと、そんなことを思うと、頭に過ぎらせてしまうのは、教授の描いたあの僕にそっくりな少年の絵。
ーーAquarius……
この浴衣はきっと……潤さんのものなんだ。
「……馬鹿だな、僕は」
つい、そんなことを呟いてしまっていた。
教授と恋人呼べる関係になって、まだ一ヶ月も経っていない。だから教授が僕の為に浴衣を用意してくれていたはずもないと分かっているのに。
それに……教授と僕の関係が本当に恋人と呼べるのかどうか……。
僕はまた、死んだ人を忘れられない人に恋をしてしまった。
この浴衣を着た僕に、教授は死んでしまった弟の潤さんを重ねたいのかもしれない。
本当は、この浴衣を着た僕を連れて、潤さんと花火大会に出掛けたかったのかもしれない。
それでもいい……と、思っていた。
愛するものに心が奪われて、それから離れることは簡単に出来ない気持ちは、僕には痛いほど解るから。
それなのに僕は、会ったことのない少年に嫉妬してしまう。
教授に僕だけを見てほしい。
今、教授の傍に居るのは、潤さんじゃなく、僕なんだと言いたい。
口には出せない思いを胸の中に押し込めながら、用意された浴衣を羽織ってみる。
浴衣を着るのは、あの中学一年の夏祭りの日以来で、自分で着るのはなかなか難しい。
さっき教授が着ていたみたいに、大人っぽく着こなしたかった。
胸元の合わせは、少し開き気味だったと思い出しながら鏡を覗き込む。
角帯を低い位置で締めているのが、カッコよかったな、なんて真似をする。
高校生だった潤さんのために作ったであろう浴衣をなんとか大人っぽく着こなそうと必死になるなんて、馬鹿みたいな嫉妬心からだというのも分かっているけれど。
だけど、僕の身体が細いからなのか、教授みたいには大人っぽく着ることができなくて、気ばかりが焦って折角風呂に入ったばかりなのに、じわりと汗が滲んでくる。
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