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かりそめ(33)
遠慮して帰ろうとした宅間さんに、カズヤさんは『運転手がいないと、お酒が飲めないじゃない』と、半ば強引に誘って一緒に出掛けることになった。
休日なので、車はいつも宅間さんがカズヤさんを迎えにくる時に乗ってくる運転手付きの役員車ではなく、宅間さんの4WD車。カズヤさんは当たり前のように助手席に乗り込んで、僕は後ろの席から二人の様子を眺めていた。
なんだか今日のカズヤさんは、いつにも増してよく喋るし、機嫌がいい。二人でよく行くというカジュアルなイタリアンレストランで食事をしている間も、ずっと。それは、たぶん僕が帰ってきたからという理由だけではなさそうだった。
二人の距離がなんとなく近い。時々見せるアイコンタクトが、言葉を交わさなくても瞳で通じ合っているような、僕には入ることのできない独特の雰囲気を感じた。
三人で出掛けたのは、これが初めてじゃなかったけれど……、今までこんな風に感じたことはなかった。
だから二人の関係が変わったのは、ごく最近だと推測できる。
「……二人仲良いね」
帰りの車の中で後ろから声をかけると、カズヤさんは即座に振り向いて、慌てたような声で返してきた。
「な、なに言ってんの……」
車の中は暗くて逆光になってたから、その表情は分からなかったけれど、僕はカズヤさんに、にこっと微笑んでみせた。きっと助手席のカズヤさんからは、対向車のライトを浴びた僕の表情は見えているはずだった。
でもカズヤさんは、そのことについて、それ以上は何も言わなかった。宅間さんはずっと黙ったまま、まっすぐ前を見て運転をしていた。
分かりやすい二人の態度に、僕もそれ以上は何も言わずにいた。
(――そっか……)
カズヤさんは五年前、僕を引き取ったことが原因で離婚をしてしまっていた。
親が決めた結婚で、愛し合って結ばれたわけでもなかったけれど、カズヤさんは家族として妻と向き合おうとしていたことも僕は知っていた。
だから……カズヤさんは岬の家のことは何も気にしなくていいと言ってくれてたけれど、僕は少しだけ罪悪感のようなものを感じていた。
それなのに、僕はたった五年で家を出て、今は教授と暮らしている。そのことは、もしもあの時カズヤさんに反対されたとしても、僕は自分の意思を変えなかっただろうけど、少しだけ後ろ髪を引かれるような気持ちもあった。
でも今日、カズヤさんの幸せをそうな顔を見ていると、なんだか心の中に暖かいものが込み上げてきて、自分のことのように嬉しくなっていくのを感じる。
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