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かりそめ(36)
それは、一年後も一緒にいようという約束。
たったひと時でいい……ううん、ほんの一瞬でいいから、教授に愛されるただ一人の存在になりたかった。それで十分幸せだと思っていたけれど……。
教授は未来を約束してくれた。そして潤さんじゃなく、僕を……僕自身を愛していると言ってくれた。
岬の家を出て、教授の家に行くことをカズヤさんに話した時、僕はその理由を『教授の仕事を手伝いながら、傍で絵の勉強を続けたい』と言った。
それは予め用意していた言葉で、嘘ではないけど、全部ではなかった。あの時はまだ、教授と僕の関係は、はっきりと恋人とは呼べなかったから。
でも、今は違う。
あの時はカズヤさんには言えなかったけれど、自分の中で密かに決めていたことがある。
――――教授が僕のことを潤さんの代わりではなく、僕自身を愛してくれる……もしもそんな時がきたらその時は、カズヤさんには全部話したい。
そう思っていた。
それを伝えるタイミングは今がいい。今しかない。
先延ばしにすればするほど、言い出せなくなる気がする。
だけど……何から話せばいいのか。
残りのコーンの部分を食べながら、僕は頭の中で話のきっかけを探していた。
でも、全部食べ終わっても言葉の整理がつかず、手の中に残ったカラフルなアイスコーンスリーブを、無意識に小さく折りたたんでいた。
そうしながら、窺うようにそっと隣を見上げると、カズヤさんの視線も僕へと向けられていて、予期せずに目が合ってしまった。
「……何?」
心臓がドキリと跳ねたのをかろうじて隠し、平然を装う。
「伊織は、今、幸せか?」
「……え……、何、突然……」
唐突な質問だと思った。でも僕の言おうとしていることと、どこか繋がっているような気もして、戸惑ってしまう。
「分からない? じゃあ、はっきり言うね……」
カズヤさんの雰囲気がさっきまでと違い、僕に向けてくる眼差しは真剣で、目を逸らせない。
「雨宮教授のこと、好きなんでしょう? 教授も同じ気持ちでいてくれてるのかい?」
「あ……え……?」
「違うの?」
「……ぅ、ううん……」
(――違わない……)
だけど、カズヤさんの方からそのことを訊かれるなんて思ってもいなかったから、すぐに言葉を返せなかった。
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