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かりそめ(49)

「いいのかい?」  遠慮気味に訊いてくる教授に「うん」と頷いて、繋いだ手を引き寄せた。目と目を合わせると、なんだか照れくさくて顔が熱くなる。教授の頬も少し赤く染まっていた。  そして、僕達は手を繋いだまま玄関へと向かう。  親に恋人を紹介する。そんなイベントは、二十二年生きてきて初めての経験で、少し緊張していた。 「どうぞ」  教授は玄関で待つと言ったけれど、僕は客用のスリッパを出して上がるように促した。  カズヤさんは、まだ二階で着替えている頃だと思ったから、リビングで待ってもらうつもりだった。 「…………」  だけど、先に部屋に入った僕は、目の前の光景に一瞬固まって言葉を失ってしまった。  僕が急に立ち止まったから、後ろについてきていた教授の身体に背中が軽くぶつかる。  吹き抜けのリビングは、ドアを開けると視線の先に階段がある。その階段の途中にカズヤさんと宅間さんの姿があった。  先に階段を下りていた宅間さんは後ろを振り向き、一段上に立っているカズヤさんにネクタイを引っ張られていて……。その状態で二人は唇を重ねていた。  一段高い位置にいるカズヤさんが、更にグイッとネクタイを引っ張ると、二人の距離が更に縮まった。  190cm近くある宅間さんと、170cmのカズヤさんの身長差が、階段一段のせいでほぼ同じに見えた。  二人は僕達がいることにまったく気付かない。キスの角度を変えて、更に深く唇を重ね合わせ始めると、宅間さんの逞しい腕がカズヤさんの腰を引き寄せた。 「……ちょっ……」  そのまま見ない振りして、ここから離れれば良かったのに、僕は思わず声を出してしまった。  教授は、察した様子で後退り、リビングの外に身体を隠してくれている。 「……あ」  階段の二人は突然聞こえてきた声に驚いて、漸く僕達がいることに気が付き、弾けるように身体を離した。 「……伊織……」  顔を真っ赤にして慌てふためくカズヤさんとは対照的に、宅間さんは何もなかったようにネクタイの歪みを直しながら、階段を下りてくる。 「では社長、車でお待ちしていますので」  そう言ってから、僕とリビングの外に立っていた教授にも気付いて会釈をし、そのまま玄関へと去っていく。 「あぁ、伊織……じゃあ、ぼくも行くよ」  顔を真っ赤にしたままのカズヤさんも、階段から下りてきてリビングの入口で立つ僕に近づいてくる。カズヤさんはまだ――教授がここにいる事に気が付いていない。

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