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かりそめ(61)
教授と暮らし始めて、まだ三ヵ月と少し。
お互いの布団を行き来したのは、最初の一ヵ月の間だけだった。そんな短い間だったのかと思い返せば、自然に口元が緩んでしまう。
そうして、広い布団の端っこで気持ち良さそうに寝息を立てる恋人の寝顔を覗き込む。
「……先生?」
声をかけると、「……う、ん……」と、返事なのか寝言なのか分からない声が返ってきた。
教授の寝起きは、お世辞にも良い方だとは言えない。
機嫌が悪いとか、そういうのではないけれど。一回呼んだだけで起きてくれた試しがないし、目が覚めた後も、暫くはぼんやりとして動かない。
だから今度は耳元で「先生起きて。朝だよ」と囁いてみる。
すると教授は眉間に皺を寄せながら「……わかった……」と呟くように言うと、寝返りをして僕に背を向けてしまう。
僕は小さな溜め息をひとつ吐く。
(――寝起きの悪さは、カズヤさんに負けないな……)
心の中でそう思いながら、それでも口元は自然に綻んだ。
出掛けるのは午後からなんだし、このまま寝かせてあげた方がいいかもしれない。でも昨夜、絶対起こしてくれと教授に頼まれたことを思い出して、その考えは頭の隅に追いやった。
「朝だよ、起きて。朝ご飯、一緒に食べるんでしょ?」
今度は少し大きな声で話しかけながら、僕に背を向けて寝ている教授の肩をトントンと軽く叩いた。
「……うん。すぐ下りるから……」
返ってきた返事は、なんだか少し子供っぽい口調だった。
(――それに、なんで“下りる”なんだ?)
なんとなく二階から一階に“下りる”という意味なんだろうというのは分かる。だけど、ここは一階なのに……。
(――寝ぼけているのかな)
不思議に思いながら、背を向けたままの教授の肩に両手を置いて少し強めに揺さぶってみる。
「ねえってば、先に食べちゃうよ?」
すると教授は、またこちら側に寝返りをうちながら、僕の手を鬱陶しそうに押しやった。
「……わかったから……先に食べてろよ――じゅん……」
「――え?」
目を閉じたままの教授の唇から零れた名前に、僕は一瞬固まってしまう。
(――なに間違ってんの!)
ショックとか傷ついたとか、そういうのじゃなくて――――なんかムカつく……っていうのも少し違う気がする。
だけど、仕返ししたいような気持ちがムクムクと湧いてきた。
僕は、掛布団の上から覆い被さるようにして、また規則正しい寝息を立て始めている教授の薄く開いた唇に自分の唇を重ねた。
「ん……」
上唇を柔らかく吸い上げて離すと、教授が吐息のような声を漏らす。
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