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かりそめ(66)*

 教授が、枕元で転がっているチューブの容器と小さなフィルムパッケージに手を伸ばす。それは昨夜も使って、そのままになっていた物だ。  だけど僕は上体を起こして、教授の手からフィルムパッケージだけをそっと奪い取り、元あった場所に戻した。  教授が僕の身体を気遣ってくれているのは分かるのだけど、実はあの感触があまり好きじゃなかった。 「使わない方がいいのか?」  布団の上で、お互い膝立ちで向き合う状態になり、教授が少し驚いた表情で訊いてくる。  この後、大学に行く前に沖縄空手の道場で練習する予定だから、本当は着けてもらった方が後処理の面では楽だということは分かっているのだけれど……。  うん。と声に出さずに頷いて上目遣いに見上げると、教授も僕の気持ちは知っているから、それ以上は何も言わずに、僕の頬を両手で包んで髪やこめかみに優しいキスを落としていく。  僕もお返しとばかりに、教授の頬や耳元にキスをして、最後に唇を重ね合わせた。  お互いの咥内の奥深く、濃厚に熱を交わし混じらせて、そうしながらジェルを纏った教授の指が尻の割れ目をなぞり、奥の窄まりを濡らしていく。  昨夜も愛されて、十分に慣らされているそこは、簡単に長い指を呑み込んで、肉襞がもっと奥へと誘うように蠢くのが自分でも分かる。  何度も角度を変えて、深く唇を貪り合いながら、身体の間で挟まれた互いの屹立が擦れて、肌が先走りでヌルヌルと濡れる。 (――ああ……たまんない……)  キスを解けば、唇を濡らした唾液が糸を引き、情欲を孕んだ黒い瞳が僕を射抜いた。  視線を絡ませながら、僕は教授の肌に口づけを落とし、しなやかな身体を下っていく。  くっきりと浮き出た鎖骨、逞しい胸に唇を滑らせ、腹筋を辿り、腹に付くほどに勃ち上がっている猛りの先端に舌を伸ばし、溢れ出る先走りを舐め取った。  やっぱり、こうして好きな人のものに、直接触れることができるのがいい。この逞しい熱杭に中をいっぱいに満たされることを想像すると、期待でゾクゾクしてしまう。  逞しい幹の根元に指を絡め、裏筋を下から上へと舌を這わせ、先端から咥内へ迎え入れると、吐息混じりの声が頭の上から落ちてきた。 「……伊織……」  まだ教授と学生の関係を崩さなかった頃は、僕のことを“岬くん”と呼んでいた教授が。  初めて身体を繋げたあの時、“潤”と、何度も囁いた教授が……。  ――この家で暮らし始めた頃、初めて“伊織”と呼んでくれた時は嬉しかった。でも、その頃はまだ呼び慣れてなくて、どことなくぎこちなくて。  それがいつの頃からだろう……気が付けば、あのぎこちなさが取れていた。  愛しい人の声で、自然に“伊織”と呼んでもらえることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。  ――こんなに幸せになれることだったなんて……。

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