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Aquarius(5)*

   仄かに漂う、油絵具の匂い……。  タクシーを降りた時に降っていた小雨に少しだけ濡れた前髪が、柔らかい照明に照らされて、艶めいて綺麗で。唇の輪郭の美しさに初めて気付いて、もう目が離せなくなってしまう。  思わず教授の首に腕を回して引き寄せて、唇を重ね合わせた。  柔らかくて、しっとりとしている感触……これが教授の唇。  いきなりの行為だったのに、教授は身じろぎもしない。  硬く瞑ってしまった目をそっと開けてみれば、視界いっぱいに広がる教授の顔が見えた。 その瞳は驚きで見開かれている。  ただ重ねただけの子供がするようなキス。それだけでも満足だった。  ここまでなら、教授もきっと酔っ払いの戯れだと笑って赦してくれる。そう思っていた。  これ以上に踏み込めば、教授と学生という関係さえ壊してしまうかもしれない。   それだけは嫌だった。  僕はこの先もずっと教授の傍に居たかったから。大学に残り、将来もずっと同じ世界を傍で見ていたい。だから無理な関係なんか望んでない。  数秒間だけ重ねた唇から、名残惜しく僕の方から離れた。 「先生、ごめ……」  ――先生、ごめんなさい……。  そう紡ごうとした僕の唇は、教授の唇に塞がれて最後まで言えなかった。  何故? どうして? と、頭の中に疑問が浮かんでくるけれど――教授が僕を求めてくれている。そう思っただけで、理性なんて最初から飛んでしまっていた僕は、すぐに教授のキスに応えた。  背中に回された教授の手の熱さをシャツ越しに感じる。キツく抱きしめられて胸が踊った。 「ッ……ん……」  重ねた唇の隙間から、無意識に漏れてしまう声が恥ずかしい。  唇を割り入ってくる教授の熱い舌が僕の咥内を溶かしていった。  角度を変えて何度も熱い吐息を交換し合う。飲み込み切れない唾液が口端から零れるのも構わずに、お互いの唇を貪った。 「愛してるよ」  確かにそう聞こえたような気がした。  耳元で囁いた教授の舌が直ぐに耳殼を擽り中へと侵入してきて、ちゃんと聞き取れなかった。  耳から身体中へ熱が伝わっていく。  ボタンが外されて、冷んやりとした教授の手がシャツの下へ滑り込んできた。  教授のあの繊細な指が、僕の肌に直接触れているのだと思っただけで、さっきからズボンの中で硬く張り詰めている僕の中心が限界に達しそう。 「あ……ッ」  熱い舌が胸に降りてきて、尖りの周りを焦らすように唾液で濡らし頂を軽く吸い上げた。 それを何度も右と左と交互に繰り返されて、ぞくぞくと甘い快感が肌を粟立たせる。  ズボンの下で疼く熱がまた大きくなるのを感じた。

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