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苦い過去 32
「じゃあこっち向いてください。」
「なんで、やだよっ。」
フェラが上手いだのなんだの言われただけでも恥ずかしいのに、女みてーにそのまま飲んだことにまた嬉しがられて、そんなことにいちいち反応してる俺もウザすぎる。
だから今は、絶対にこいつに顔を見られたくない。
それに、
「もうその話は終わりだ、寝るぞ。」
「え?このまま泊まっていってもいいんですか?」
「今更だろ、もういいよ。」
雨はとっくに止んでいるはずなのに、俺は帰れと言えずにいた。
それは、この情けない顔を見られたくないからか、それともこいつの腕の中にいることが心地いいと思ったからか………
どっちかなんて、
こうして理由を探してもいる時点で、俺は────
「先生、どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。」
そして、雨音なんて全く聞こえない静かな空間で、またこいつが耳元で熱く囁く。
「でも、………止んでいるみたいですよ、雨。」
「だから?」
「雨が小降りになったら帰る約束だったから、帰らなくていいのかなと思って聞いただけです。」
こう言う時だけ優等生らしいこと言いやがって。
でも、こいつは知ってて聞いているのかもしれない。
「………帰らなくていいよ。」
────そう俺が言ってしまうことも。
そして、次に与えられる言葉によって俺がまた、安心感を得ると言うことも。
「────先生のそんなところも、大好きですよ。」
背中に感じる熱いその声が、何故か今日はやけに身体中に染み渡って、
あいつとは違う安心感をこいつは与えてくれるのかも…しれない────
……そう、抱き締められる腕の中でふと思ってしまった。
くちづけを重ねる度、
頑なな冷えきった心が温められるようで、
目の前の全てを遮断するように俺は静かにその目を閉じた────
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