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儚い感情 7
洵也の話を出されてあからさまに動揺してしまった。
これじゃ俺が関係してるって言っているようなもんじゃないか。
だけど、こいつは……どこまで知っていてどこまでその話を信じているんだろう。
小言を言いながら自分のおしぼりでテーブルを拭く朝比奈をさりげなく盗み見る。
…………特に変わった様子は、ない……と、思う。
「ちょっと、先生もぼーっとしてないで拭くの手伝ってくださいよー」
「…………あぁ。」
目の前に横たわる空のグラスを拾い上げテーブルの一番端に置き、朝比奈と同様におしぼりを手に取る。
気まずい雰囲気を変えたくて頭の中では必死に他の話題を探しながらテーブルを拭く。
だけど、いきなり話題を変えるのもそれはそれであやしすぎる気もするし……
参ったな……
そんな思いで手を動かしている中、沈黙を破ったのは朝比奈だった。
「………さっきの話の続きですけど、先生はその話は知ってますよね?」
話まだ続くのかよ。正直、知らないで終わらせてさっさと帰りてーけど、去年の話だからな…そうもいかねーよな。
「まぁ、知ってる。けど、ホントかどーかまでは…俺も噂程度でしか知らないからわかんねーよ。」
「え?そーなんですか?」
「……あぁ。」
なんか誘導尋問されてるみてーでこえーな。
テーブル上はとっくに綺麗になっているのに、こいつの話はまだまだ続くらしい。
なら俺は、適当に話作ってさっさと終わらせて帰るまでだ。
「朝比奈だって噂話程度でしか知らないんだろ?俺も当時その程度でしか知らなかったし。それに、そんな掘り下げるような話題じゃねーだろ。」
「まぁ、そうですけど。」
「そろそろ帰るぞ。明日だって仕事なんだから。」
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