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儚い感情 9
「どういうつもりだ。もういい加減いいだろ?」
「だって大して飲まないうちに先生全部溢しちゃったじゃないですかー。」
空のグラスを持ち上げ、俺の目の前でゆらゆらと揺らしながら朝比奈がニヤリとしてくる。
こいつ………何が言いたいんだ。
「そもそもおまえが勝手に……」
「あー来ましたよ、ほらっ先生」
俺の話を遮るようにわざわざ目の前にグラスを置いて、飲みましょうと促される。
仕方なくグラスに口を付け、ドクドクと冷たい液体を半分ほど飲み干した。
「……さっきの話、まだ続きがあるんですよ。」
口に付いた泡を手の甲で拭っていると朝比奈が続きと言ってまたその話を持ち出す。
「まぁ、これは本気で噂程度の域だと思うんですけど……」
なんか物凄くイヤな予感がする。
「その付き合ってた教師って────」
肝心なとこで隣のテーブルから聞こえてきた歓声で全く聞こえなかった。
「……なんか、全然聞こえなかった。」
「ですよね…───“男”らしいですよ?」
「は?」
「その付き合ってた教師って“男”だったらしいって。だから―――同性愛ってやつです。」
「……………」
予感は見事に的中。
つか、一体誰がそんなこと今更言いふらしてんだ。
追い詰められているような感覚に顔がひきつり、まともに朝比奈の顔が見れない。
こんなとき、そんなドラマみたいな話ありえないだろ……なんて適当に流せられたら出来た大人なのかもしれないが、俺はそこまで大人じゃなかったらしい。
流すも何も、喉の奥で詰まって言葉一つ出てこない。
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