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儚い感情 10

そりゃそうだ。 “ドラマみたいな話”の主人公は俺だったのだから。 「先生?どうかしました?」 「……いや、……」 何でもない。と告げるだけで精一杯で、続かない言葉の代わりにグラスに残るビールを一気に飲み干した。 「まぁ、単なる噂ですからね。でも、当時も同性だって噂でしたか?」 「…………知らねーよ。」 これ以上話しているとボロが出そうで恐い。 こいつは妙に勘がいいところがある。 話だって、その類いを仕事にしているんだから、同じ教師でも俺より能弁だ。 「本当に何も知らないんですね…。」 「し、知らねーって。朝比奈よりも知らない…つか、興味ないし。」 だから、この話題を終わらせるように“知らない”“興味ない”を繰り返した。 「俺、結構そう言う話気になっちゃうんですよ。しかも、純愛みたいなの…いいじゃないっすか?!」 なのに、こいつの口から出てきた言葉に思わず吹き出してしまったのは、この場の空気には不釣り合いなテンションでそんなことを言い出したから。 「おまっ、ドラマの見すぎだろ。純愛とか……」 どうしたら同性同士で純愛に結びつくんだ。 男女より乗り越える障害が多いからか? それとも、教師と生徒という枠に囚われた関係だからか? 俺たちには両方越えられなかった壁。 だから、これ以上こんなこと考えたとしても無意味なのに。 「いやいやマジで、その“ドラマ”みたいな話には続きがあるから純愛なんですよ。」 「…………続き?」 無意味なのに、 「なんだよ、続きって。」 俺は、朝比奈の話に少しだけ興味を持ち始めていた。

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