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儚い感情 17
「桐谷先輩の噂です。噂では相手の教師は誰か不明なままですけど、相手は先生ですもんね。」
「誰から聞いたんだ、その噂。生徒の間でも噂になってるのか?」
星川の耳にまで入っていたとは。
一体誰が流してんだ。
「いえ、たまたま職員室の前を通った時に朝比奈先生が誰かと話してて…それで。だから、そんな学校中に広がってることはないと思います。」
くそっ…朝比奈のやつ。
俺と飲みに行った後、誰かに話したってことか。
「それよりも、その話本当なんですか?」
「話って……?」
まさかとは思うが、あの話まで聞いてしまったのだろうか。
だから、星川が言うように“焦って”いるのか。
「先生、もしかして…知らないんですか?」
「だから何が。」
頭がいい星川のことだからもっと掘り下げて聞いてくるのかと思ったら、案外あっさりと“知らないなら大丈夫です”とすぐに安堵の表情に戻っていた。
不思議に思って口を開きかけた時に、今日で何度目かのキスをされそのまま強く抱きしめられた。
「星川?」
「先生のことは誰にも渡しませんから……たとえ、桐谷先輩にだって。」
俺を抱きしめながら譫言のように呟き、その腕の力を更に強めてくる。
そうやってこいつは、自分の中で解決したような素振りで一方的に想いを貫き、俺に答えを求めたりしない。
俺がこいつのことをどう思っているかなんてどうだっていいように。
さっきも、好きかと問われた時だって曖昧な返事をしたにもかかわらず案外あっさりしてたし、俺を好きだと言うわりにはそこまで束縛するような素振りもない。
唯一、身体の関係だけは続けて欲しいと言うくらい。
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