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儚い感情 20
時計を確認するともうすぐ17時。
校庭には部活動の奴らでガヤガヤ煩いのに、この部屋に居るとその雑音さえ遠くに聞こえるほどの静けさが広がっている。
こうしてぼんやりと窓際で外を眺めているのは嫌いじゃないが、今日は特に急ぎの仕事もないことだしさっさと帰ろう。
そう思い、窓にカーテンを引こうとしてふと視界に見覚えのある人影を見た。
あれ?
人影は一瞬で消え、すぐに見失う。
何であいつが……
カーテンを引きながら、ざわつく気持ちを抑えるように短く息を吐く。
そしてそれから間もなくして、静寂を掻き消すようにガラリとドアが開く音が響くと、誰かが化学室へと入って来た。
まさか……
響く足音はだんだんとこっちに近付いてきて、俺の居る準備室に続くドアがゆっくりと開くと、まさかが確信に変わった。
「…………やっぱり居た。」
そこに現れたのはさっき一瞬見かけた人影────洵也。
「おまえ……どうして……」
「この時間はいつも此処で煙草吸ってたから。」
「そうじゃなくて、何でまた俺のとこに来たんだよ。」
「あの日、とんだ邪魔が入ってゆっくり話が出来なかったから。だから、今日ゆっくりと話をしに来た。」
「この前も言ったはずだ。おまえと話す話なんてない。」
「先生になくても俺にはあるんです、とても大事な話なんです。それに……」
思い詰めたような表情のままそれだけ言うと、
「今でも好きなんです────あなたのことが……」
その長い腕に抱きすくめられ、
耳元で熱くそう囁かれた。
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