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年下の彼 5

外に出ると土砂降りの雨が降っていて、今日も傘を持ってきてない俺はずぶ濡れになりながらマンションへ帰った。 洵也と再会したあの日、星川が無理矢理うちに来た時もこんな土砂降りの雨の日で、小降りになったら帰れと言ったのに結局俺はあいつが泊まることを許してしまった…… あの日、泊めずに帰していたら…… そしたら今と何かが変わっていたんだろうか。 “先生のそんなところも大好きですよ” その時、許した俺に星川が言った一言が頭の中をリフレインしている。 「大好き…………か…………」 “好き”でも“愛してる”でもない。 “大好き”だと何度も真っ直ぐに気持ちを伝えられ、その度に俺はずっとその気持ちをはぐらかしてきた。 洵也だって同じだ。 今でも俺を愛してると何度も言われ、揺らぐ気持ちに踏ん切りがつかなかった。 俺が一番必要としてるのは…… 星川なのか…… 洵也なのか…… 俺が、 大切だと思うのは──── * これでよし。 忘れ物は……ないよな。 玄関の鍵を閉め、大通りに出るとタクシーがちょうど通りかかった。 「……空港までお願いします。」 乗り込み行き先を告げるとバタンとドアが閉まる。 そして、あの夜渡されたアメリカ行きのチケットを眺めながら腕時計で時間を確認してからゆっくりと目を閉じる。 これが正しいかなんて正直分からない。 けど、これが俺が出した答えなんだから仕方ない。 ……たとえ、この先どんなことが起きようとも腹を括ったのだから後悔はしないだろう。 車内で揺られながら、俺はここ数ヶ月のことを思い出していた。 嵐のように目まぐるしい日々だったけど、それが今日に繋がっていたのなら、それなら意味があったのかもしれない。 星川と出会ったことはきっとこうして決断するためだったんだと思えば、少しは罪悪感が薄れるような気がした。 ごめんな…… はっきりしなくて…… 「お客さん…着きましたよ?お客さん?」 「あ……すいません。」 昨夜一睡もしてないからか気づけば寝ていたらしく、運転手の声で目を覚ます。 金を払いバタンとドアが閉まる音が背中で響くと、妙な緊張感に包まれる。 よし、行くか。 そう自分に言い聞かせるように呟いて、俺は洵也が待つ待ち合わせ場所へと歩き出す。 ゆっくりと、 ゆっくりと、 今までの思い出を思い出しながら……… ゆっくりと………

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