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第4話「スカートの中」

次の勤務日 高橋の運転する車で買い物に出掛ける事になった。見慣れない私服のせいか、赤の他人の様で少し緊張した。 よく見れば、身長もそれなりにあり、余計な脂肪もついていない。切れ長の目も凛々しく、実はモテるのかもしれないと思った。 「今日は服を買います。」 連れてこられたのは、一軒家を改装した落ち着いた雰囲気の店だった。少し敷居が高く感じられる。 「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」 高橋は慣れた様子で店内のソファに腰を下ろした。スーツの男性店員からは温かい紅茶が出される。高級そうなティーカップに、おそるおそる手をつけた。 「美味しいっす!」 爽やかでスッキリとした喉ごしと抜群の香りに、すっかり緊張が解れた頃、絶妙のタイミングで店員から声を掛けられる。 「試着室にご案内致します。高橋様はどうぞそのままで。」 「へっ!?俺っすか?」 思いがけず間抜けな声を上げてしまった。訳の分からないまま試着室へ連行される。 試着室に入るとハンガーにドレスが用意してあった。見るからに女性向けのロリータドレスだ。 何かの間違いでは無いかと思ったが、ふいにドールの着せ替えを楽しんでいる高橋の姿が脳裏に浮かび、ここに連れてこられた理由をやっと理解した。 「ま、まじか…」 足元のカゴには、ご丁寧に着用方法を図解したメモ紙まで入っていた。さらに外で待ち構える店員から、控え目な声が掛かった。 「宜しければ、お着替えお手伝いしましょうか。」 「大丈夫っす!」 さっさと着替えを済ませると、高橋が満面の笑みで出迎えた。 「七瀬くん、美しい。」 ゆっくりと顔を上げ姿見鏡で全身を確認する。男女の境界を感じさせないデザインになっていた。 「なんだよ。悪くないじゃん。」 帰りの車中、高橋が決まりが悪そうに呟く。 「今日はありがとうございます。」 「いえいえ。」 ちゃんと時給をもらっているので、これも仕事だと割り切っていた。 「これで七瀬くんの負担も少し軽くなると良いのですが…。あの服なら何かあっても分かりませんよ。」 「えっ?」 「今更ですが、この前の事は配慮が足りなかったと反省しています。」 つまりは、全てをスカートの中に隠してしまい、お互い見なかった事にしようと言う事だろう。 その発想は無かった。思いがけない逆境の強さに、少し頼もしいと思ってしまった。

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