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第8話「七瀬」

七瀬の第一印象は、はっきり言ってあまり良くなかった。今時の若い者が来たと言った感じだ。 茶髪ではないが、前髪が目までかかっていて鬱陶しい。ピアスやネックレスまで身に付け、挨拶もまともに出来ない。 腑抜けていたが、仕事ぶりはつつがなかった。 暇をもて余せば声を掛けてくるし、メールのレスポンスも良い。業務と無関係なメールには関心しないが、不思議と不快では無かった。 少しは信頼に値すると判断し、居室への入室も許すことにした。 「この部屋なんすか。」 隠す必要も無いと、ドール達のいるウォークインクローゼットの扉を開け放ち、ついでに掃除を頼んだ。 奇異の目に晒される事は覚悟だったが、関心が無い様だった。 いつもの様にドール達に夢中になっていても、掃除ばかりでこちらを見ようとはしない。 「スーパードルフィーをご存知ですか。」 終いには、こちらからドール達の魅力を語りはじめていた。 すると、パタリと手を止め向き直り、真剣な眼差しで話を聞いてきた。いつも無反応なドールに話し掛けているせいか、目を合わせてもらえるのが嬉しかった。 七瀬がドールだったら。 望んだ言葉、望んだ表情をくれるだろうか。少なくともドールになれる素質は十分あると思った。 「こんな事を頼めるのは、七瀬くんだけです。」 何とか専属メイドになってもらう事を承諾してもらった。実際に七瀬を目の前にすると、とても違和感があった。 このままではドールらしくない。 どうしたものかと、ベッドで仰向けになった七瀬の頭を軽く撫で、サラサラな髪の毛に指を絡める。 額から後頭部へと髪をすくと、ぼんやり天上を見つめていた目が閉じた。 ドールの顔になった。 柔らかい頬、首筋、広い肩、細い腕、薄い胸板、引き締まった腹、すらりとした足、全てが自分のものだ。一つ一つを確かめる様に撫で回した。 素足を触らせて欲しいとズボンまで脱いでもらい、すっかり夢中になっていると、今度は突然突き放される。 真っ赤な顔でうずくまる七瀬。いつの間にか触っていけない所に触れてしまったのだろうか、触り方が悪かったのではないだろうかと、不安が押し寄せた。 少しでも落ち着けば良いと背中に手を添え、熱が引くのを一緒に待った。 身体に触れるのは考えた方が良いかもしれないと、残念な気持ちでいると、七瀬から頭を下げれた。 いけないのは自分の方だと思った。

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