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第8話
その日は予定外だった。学校から帰ると、玄関のところに携帯を弄りなから立っている可奈がいた。凪沙に見えない位置に立っていたことに安堵する。
「あ、俺用事があるからまた後でな」
玄関に立っている可奈が目に入らないよう凪沙の視線を遮る。凪沙が自宅のドアの中に消えるのを認めてから、玄関に立っている可奈に声をかけた。
「勝手に来るなよ。お前と会う約束してねえし」
「いいじゃん。時間できたから待っててあげたの」
一見可愛らしい顔をしているが、自分の欲求に素直で狡いところがある。俺にはお似合い。話すときは、語尾を伸ばして少しあげる。
「どこにする?シュウの部屋がいい?それともどっかいく?」
どっかって何処だよと思うが口には出さない。最初に会った時に薄い髪と瞳の色に惹かれた。凪沙と同じだ。そう思った。一度だけと思った関係はズルズルと続いてもう二ヶ月になる。凪沙とは似ても似つかない。それでも手っ取り早く欲求を処理してくれるから有り難い。
上がれよと、 鍵を開けるとさっさと俺の部屋へ入っていく。明るい時間にこいつとするのは好きだ。その目の色に凪沙を重ねられる。俺の腕の中で喘ぐ姿に興奮する。凪沙と同じと思っていた瞳の色が コンタクトだと知ったのは、最初に寝たとき。それでもいい。凪沙を想像させてくれるなら。凪沙、お前はどんな顔をして抱かれるんだ。
欲求を全て吐き出すと、嫌悪感が襲ってくる。目の前の生き物は決して凪沙じゃない。駄目だ。吐き気がする。
「ねえ、明日会える?暇なんだけど」
こいつは誰でも良いんだろうな。簡単に寝てくれる男なら。お互い様かと、何故か笑いが込み上げてきた。
「何笑ってんの?馬鹿じゃない」
例え偽物でも凪沙と似た目がこっちをみて笑う。その瞳にまた欲求が頭をもたげてくる。手を可奈の腰に回し手前に引いた。
その時、何の前触れもなく部屋のドアが開いた。ドアの向こうに立っている凪沙と俺の目が合った。
「うわっ!ご、 ごめん」
ドアが勢い良く閉まり、凪沙はバタバタと階段を降りていく。玄関の扉がバタンと閉まる音がした。
しまった。玄関の鍵かけていなかったと思っても後の祭りだった。追いかけて言わなきゃ……俺は?俺は何を言うんだ。本当に好きなのはお前だよなどと言えるわけもない。
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