9 / 34

第9話

 翌朝、いつものように玄関先で待っている凪沙が何故か妙にそわそわしている。  「あの、昨日なんだけど、何も見てないから。大丈夫だから」  凪沙らしい。わざわざ言ってくるのはしっかり見てしまいましたと、言っているようなものなんだよとおかしくなる。  「悪い、驚いたよな。鍵かけ忘れて、ごめんな。 ところで何の用事だったんだ?」  「え、……あの。彼女いるって知らなかったから、付き合っている人がいるなら教えてくれれば。 あっ、えっと。その用事って言うか、聞きたい事って言うか……」  歯切れが悪くて、何が言いたいのか全くわからない。  「で、結局何?」  「えっと美咲ちゃんが修斗に彼女はいるのか、いないのかってしつこくて。そう言えばそんな話した事なかったなあとおもってさ」  「別に彼女とかいないし、ただそう言う関係の子が昨日いただけ。悪いけど、美咲ちゃん?だっけ?俺、女子マネージャーにも興味ないよ、悪いな」  言い換えると、俺は目の前のお前に片思い中。そいつ以外は眼中にない。ただ、それは誰にも言えないだけ。  その朝は落ち着かない空気の中、立っている自分の位置さえ分からなくなりながら歩いた。  その凪沙の乱入以来なんとなく可奈とは連絡し辛くなった。メールに返答もせず放置しておいたら、電話で罵倒されて終わった。これで良かったのかもしれない。  そして、もうすぐ夏休み。  バスケの夏合宿が待っている。合宿の部屋割りはクラス順に三人ずつ。選抜クラスの1組で部活に入っている殊勝な奴は俺くらい、マネジャーの凪沙と同室。  そう、同じ部屋で眠る事になる。あと一人は同じ部屋にいるとはいえ不安になる。  夏休みまであと一週間。

ともだちにシェアしよう!