12 / 34
第12話
部屋に戻ると山本がいない。ジュースも買いたいし、ついでに探してくるよと、凪沙が出て行った。
しばらくして、凪沙が手ぶらで帰ってきた。
「凪沙?財布忘れたのか?」
「じ、自販機の陰で山本君と宮野さんが……」
もごもごと凪沙が答える。ああ、なるほど。あの2人付き合ってたのか。
落ち着かない様子で、後ろを振り返るりながら部屋に入ってきた凪沙は、入り口の小さな段差につまずいて部屋の中に倒れ込んできた、
あっと、思った時に俺は反射的に抱きとめた。
「ごめんっ」
真っ赤になった凪沙が俺の腕の中にいる。可愛すぎる。ああ、もう無理。そのまま、凪沙をぎゅっと抱きしめてしまった。
「えっ?あの、修斗? 大丈夫だから」
凪沙は困惑した表情で俺の腕の中から俺を見上げている。
「悪い。俺、眠くないから少し散歩でもしてくる。明日も早いんだろ。マネージャーさん、しっかり寝てろよ」
そう言い残して、部屋を後にした。
……無理だ。今同じ部屋になんか居られない。
身体が熱くなるのを感じながら合宿所の外へ出た。
「お!荻原じゃん。何してんの?」
声をかけてきたのは近藤だった。
一番会いたくない相手が嫌なタイミングで声をかけてきた。なぜここにいるのかと苦々しく思う。
「前から思ってたんだけどさ、何でお前は彼女作んねえの。お前、モテんのに。選り取りみどりじゃねえ?それとも誰か好きなヤツでもいるとか?」
相変わらず近藤の話し方は俺の癇にさわる。何も答えないでいると、近藤はさらに続けた。
「例えば、近くて手を出せない相手とか?」
「どういう意味だ」
俺の質問には答えずに近藤はニヤリと笑った。
「まだ、お前の気持ち伝えてないんだろう。あいつどう見てもノン気だよな……佐伯」
その一言に頭から冷水を浴びせられた。
「誰かどうしたって?」
以外と冷静な声が出た事に自分でも驚いた。やっぱりこいつは嫌いだ。
「 まあ、いいか。それよりこんな時間にどこにお出かけ?付き合ってやろうか?」
「お前には関係ない。今、戻るとこだ」
身体の中心に集まっていた熱が冷めていく。代わりに頭に血がのぼる。
イライラしながら部屋に戻ると山本も凪沙もすっかり寝息を立てて寝てしまっていた。
自分の布団をずるずると縁側へと移動し、横になった。
身体は疲れている。横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。その日、初めて会った日の凪沙が夢の中で笑っていた。
ともだちにシェアしよう!