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第18話

 その日、家に帰って暗いリビングに灯をともすと玄関のドアが開く音がした。  「母さんが、これ持ってけって」  夕飯をお盆に乗せた凪沙が入ってきた。  「修斗、1人で大丈夫?僕、泊まっていくよ。母さんも父さんもそうしろって」  おじさん、おばさんありがとう、そしてごめんなさい。俺はあなた達の大切な息子さんに惚れてます。  心がこれだけ参っている時、二人っきりで一晩とか、自制できる気がしない。  「大丈夫だから。帰れよ、気持ちだけで充分」  そう言っても凪沙は頑として譲らない。  これって何の拷問なんだろ?  昨日は病室に泊めてもらったから風呂にも入ってないし、狭いところで寝たから体はギシギシいっている。さっさと風呂入って自分のベッドでゆっくと寝るつもりだったのに。  さっきから 俺の視線は薄いTシャツと短パンからスラリと伸びた白い手足から離れない。気になって仕方ない。  今日は修斗が寂しくないように、ずっといるからと言われて嬉しい反面苦しい。好きなやつと2人っきり一晩同じ部屋。  叫んでも誰も助けに来ないよ凪沙。良いのか本当にとあらぬ方向へ思考が及ぶ。  まずい。自制できる気がしない。  とにかくこの場から離れる事で問題を先送りにしようとする。  「俺、シャワー浴びてくるわ」  そう言い残して立ち上がると、凪沙が俺の顔を見て心配そうに答える。  「ねえ、本当に大丈夫?修斗、さっきから一度も目を合わせてくれてないよね?本当はつらいんでしょう?」  「大丈夫」  浴室へ向かう俺の後ろから声がした。  「布団、勝手にだしておくからね」  シャワーを浴びても体の熱が逃げない。疲れている。体も心も。こんな時は誰かの温もりが欲しい。  そして部屋に戻るとベッドの横に敷かれた布団の上に、凪沙が眠たそうな顔をして膝を抱えて座っていた。  眠たいのを我慢しているだろうなと思うと、愛しさが湧いてくる。この状態で朝まで、俺は修行僧か。  「あ、おかえり」  今にも寝てしまいそうな様子で見上げてくる。静まり返る部屋の空気が重量感を増してきた。  「凪沙、俺まだ謝ってないんだよな。この前の事、ごめん。本当にごめん」  「うん」  「寝ぼけてたお前、可愛くて……、自分でも馬鹿な事したと反省してるから」  「うん」  下を向いて「うん」としか答えない。やっぱり怒っているよなと思っていたら、凪沙の耳が赤くなっていることに気がついた。  拒絶じゃない?もしかして……もしかして。  俺は両手を凪沙の前に座ると、顎に手をかけ凪沙の顔を上に向かせた。  その瞳には嫌悪の欠片もなく。まっすぐに俺をみていた。  視線が絡んだ瞬間に全ての感情が雪崩のように速度を増して俺を押し流してくる。  もう止められない。既に限界は突破している。肩に手をかけると凪沙の身体を布団の上にゆっくりと倒した。

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