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第26話

 誕生日の日、イトさんは職場の友人に誘われて京都旅行。孫の誕生日に家を開けるのはと躊躇していたのを退院祝いも兼ねて楽しんで来て欲しいと、旅行に行っていただくことにした。  何とか凪沙と二人だけの時間を作った。  俺の中では「もう凪沙にリボンかけてもらうしか無い」と言う気持ちになっている。誕生日には友達呼んで騒ぎたいから何の心配もしないで欲しいとイトさんに念を押した。万一、良い雰囲気のところで電話でもかけてこられたらたまったもんじゃない。  自分の誕生日がこれだけ待ち遠しいのは小学生の時以来だ。  そしていよいよ今日、凪沙と二人きり……のはずだった。  予定は未定、決定にあらず。  俺は今、焼き肉屋にバスケ部の仲間といる。練習試合の後、近藤が余計なことを言い出したからだ。  「先輩、試合も勝ったし、たまには飯でも行きません?俺、駅前の焼き肉屋の割引き券持ってるんですけど。あそこ食べ放題ですよね」  俺は断る、だから断れ凪沙!と、念じていたのに。「そうですね、たまにはみんなで」と、凪沙が答えた。  そして今に至る。帰りたい。絶賛帰りたいモードだ。いろいろと二人で、二人っきりでと思っていたのに。  俺の考えてる事なんてどうすれば凪沙と……。  ん?それに勘付いて避けられたのか。  もうかれこれ1時間半近くなる。90分食べ放題なんて運動部のためにあるんだろう。物凄い勢いで消えていく肉の山。  後少しで帰れると思い時計をちらちらとみる。そろそろかと思っていたその瞬間に副部長がとんでもないことを言いだした。  「よし、この面子でカラオケ行くか!」  先輩、もう帰らせてください。  「俺は今日はちょっと」断ろうとする俺に近藤がにやにやと用事でもあるのかと聞いてくる。  「付き合い悪いとマネージャーから嫌われるぞ。ほら立て、行くぞ」  笠間との事の顛末を知らない副部長はからかい半分に笑っている。笠間も何か言えばいいのに知らん顔を決め込む、仕方ない。  「あ、先輩。俺、笠間さんには振られたんで。もう嫌われてますから大丈夫です」  少しふざけたトーンで言う。その俺の言い方がかえって先輩に気を遣わせたようだ。部長が立ち上がると「今日は帰るぞ」と、救け船を出してくれた。  「え?修斗フラれたの?」  相変わらず頓珍漢な反応をする凪沙が事態を呑み込めずに地雷を踏んだ。ものすごい勢いで笠間が、凪沙、お前のことを睨んでいるのは……気が付いているのだろうか。  「さ、帰るぞ」  凪沙の腕をつかむと余計な事をこれ以上言わないうちにと、駅へと引きずるようにして向かった。

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