28 / 34

第28話

 焼き肉臭いと言っていた当の本人は、いつの間にか俺のベッドに頭を預けてうとうととしている。  本当にこいつは、いつでもどこでも眠れるんだな。  「凪沙、お前さ風呂入ってこい」  つんと軽く足先でつついてみる。  「ん?あ、ごめん。寝ちゃったみたい」  大きく伸びをすると目を擦りながら立ち上がった。無意識に立ち上がった凪沙は近すぎる俺との距離に驚いたのか、慌てて一歩下がった。  後ろにさがる余裕のない場所だ、そのままベッドに倒れ込んでしまった。  凪沙、わざとなのか?ふりなのか?無意識の凪沙に振り回されている。目の前でベッドに横になるなんて誘われてるとしか思えないんだよ。  「いい子だから、大人しく風呂入ってこい」  それだけ言うのが精一杯。踏みとどまった自分を褒めてやりたい。いつものように客間から布団を一組出してくる。  床にぼすっと布団を投げ落とすと、テレビのスイッチを入れた。面白くもないお笑い番組の効果音のような笑い声が聞こえてくる。騒がしいだけのBGM、それでも静寂よりマシだとボリュームをあげた。  「修斗?珍しいの見てるね?僕は嫌いじゃないけど」  凪沙が風呂から上がってきた、俺と同じボディソープの香り。なのになぜかそばに寄ってくると甘く感じる。  凪沙は当たり前のように俺のベッドに並んで腰かける。ベッドの下からゲームのコントローラの入った箱を引きずり出すと、勝手にゲーム機のスイッチを入れた。  「ねえ、この前のデータってセーブしてあったよね?」  これからゲームしますってことだな。お前に告白したやつと一緒の部屋で一晩過ごすんだぞと言いたくなる。無邪気は時には残酷だ。  「凪沙、お前わかっているんだよな」  「ん?」  「きちんと俺の気持ちは伝えたよ」  「それって、今のままじゃ駄目ってこと?」  「駄目とは言ってないけれど、決着つけてくれる?」  「それって……友達のままじゃ駄目ってことだよね。聞かなかったことにはできない?」  「嫌ってことか」  俺は頭を抱え込むと大きく息を吸った。一度言葉にしてしまった想いにつぶされそうで、どうしても答えを性急に求めてしまう。  「嫌じゃなくて、わからない。修斗はずっと修斗でしょう?ずっと一緒だって約束したよね」  「一緒か、一緒ね。悪い、もう小学生じゃないんだ。ただ仲良く一緒に遊ぶってのが、俺にはもう無理なんだよ」  凪沙は下を向いて黙り込んでしまった。テレビではゲームのオープニングが繰り返し流れている。繰り返される同じシーンに照らされながら叱られた子供のような凪沙の姿に自分がとんでもない意地悪をしているような気がしてきた。  「よし、わかった。今日はもうこの話は止め。せっかくの誕生日だしケーキでも食うか」  キッチンに降りると、コップ一杯の水を一気に飲んだ。少し気持ちを落ち着けて、冷蔵庫にあるケーキの箱を取り出す。二人ではとうてい食べられないサイズのケーキにフォークを二本突き刺すと、箱を抱えて部屋へと戻った。

ともだちにシェアしよう!