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第30話

 凪沙が部屋を出てから凍りついたように動けなくなる。それって……どう言う意味だよ。  結局、何も進展しないのにまた期待だけさせられるのか。ベッドから起き上がり後を追おうとしたが、立ちくらみがしてまたベッドへと倒れ込んだ。  凪沙は嘘がつけない。だから自分の気持ちがわからないと言うのは本当なのだ。そして、他の誰かが俺に触れるのが嫌だと言うのも。  俺のことが好きだと言ってるようにしか聞こえないのだが、凪沙が自分で気がつなかきゃ意味がない。  天井が歪んで見える。きっとまた熱が上がってきたんだろう。こうやって同じことをぐるぐると考えるのも面倒になってくる。目を閉じると、ぐらりと頭が揺れたような気がした。  翌日、下がると思っていた熱は一向に下がらなかった。もう一日ベッドの中で過ごすことになったとうんざりしていたら、携帯がメールの着信を知らせてきた。  「なに?お前、知恵熱?」  凪沙からかと期待して携帯を手にすると、届いていたのは近藤からの意地の悪いメールだった。  期待していた相手からじゃない事に苛ついて携帯を部屋の反対にあるソファへと放り投げた。もう寝てしまおう。ソファの上で携帯がまたぶるると震え誰からかの着信を知らせる。  立ち上がるのも面倒だなと思っていたらすぐに電話は切れた。メールか……後でいいかと目を閉じる。凪沙からの連絡は来ないんだ。  しばらくうとうととしていたらしい、体が固まったような気がする。左手が少し痺れている。  「……ん?な……ぎさ?」   痺れた左腕の上には凪沙が乗っていた。  「……あ、おはよ修斗」  おはようって、お前、何しているんだよ。  「何してんだ、お前」  「何って、今日も休んでたし」  大きく伸びをすると当たり前のように俺のベッドから凪沙が降りた。確かにどこでもすぐ寝るやつだけれど、お前に告白したという事実を解っているのか。  「もう大丈夫?メールしても返事ないから具合悪いのかと思って心配したんだけど」  「お前どうやって入ってきたんだ?玄関鍵が……」  「え?だって、とっくにイトさん帰ってきているよ」  窓の外を見るとすっかり暗くなっていた。  「お前、いつからここにいるの?」  「んー?いつだったかな?それより体調はもう大丈夫?」  熱がまた上がりそうだ。  「凪沙……本当にお前は」  「ん?何?」  俺は何を独りで苦しんでいるのかと可笑しくなってきた。馬鹿馬鹿しい。凪沙の頬に手を当てる。少し首をかしげたけれど別に逃げることは無い。  俺は何を見てきたんだ。凪沙はいつだってここに居た。  「凪沙、俺のこと嫌いじゃないよな」  「うん、それはそうだけれど?」  凪沙は少し微笑んでいる。これでいいんだ。今、無理に決着をつける必要がある気がしていた。焦る必要があったのは自分自身の気持ちに不安だったからか。  確信した。絶対に凪沙の気持ちのベクトルは俺に向かっている。

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