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第102話 二組の親子
皆で駅近くのスーパーへ向かう。
この間、斗織と一緒に来たお店。
斗織がいないのはやっぱり淋しくて……
家の用事が無くなって、後から追いかけて来てるんじゃないかな、とか。
ホントはあのメッセージはうたた寝の間に見た夢で、遅くなって悪ィって走ってくるんじゃないかな、なんて。
つい何度も振り返っては、変わらない現実に重く白い息を吐いた。
店の付近でもう一度だけ、と振り返る。
「ぁ………」
視線の先に、やけに目を引く着物の親子連れが歩いていた。
オフホワイトの着物にワインレッドのコートを合わせた上品そうなお母さんと、藍色の着物に黒いコートを羽織った息子。
───やっぱり、ほんとに家の用事だったんだ。
俺の見た夢なんかじゃなくて、ほんとのキャンセルだったんだなぁ。
……それはそうだろう。
皆にも連絡が行ってたから、誰も斗織が来ないことを気にしなかったんだろうし。
俺だってちゃんと、お泊りの用意をしてから出て来たんだ。
いつの間にか寝ていて、そしてまたいつの間にか起きていた、なんて……そんな事が有る訳がない。
───目が離せない。
それどころか、斗織にも俺がここにいるって気付いて欲しくて……入口の手前、足が止まってしまった。
道路の向こう側には、前を見据えて凛とした姿で歩く斗織。
背筋が伸びてて、姿勢だけじゃなく、足袋に草履の足運びも綺麗だ。
道の反対側からもう一組、着物の親子が歩いてきた。
そっちは母親と娘の組み合わせ。
二組はお互いが見えると会釈をし、合流すれば同じ方向へと歩いて行った。
───なんだ。……そういう事か。
「羽崎、家の用って…」
中山の口から言葉がポロリと零れた。
「ああ、お見合いだったんじゃない」
サラリと伝えれば、
「お見合い!?紫藤がいるのに!?」
矢鱈と大仰に驚く。
「斗織、茶道の家元の跡取りなんだって。だから、お嫁さん貰って、更に跡取り産んでもらわなきゃいけないらしくて。だから彼女は、お母さんが選んだ斗織のお嫁さん候補なんじゃないかな」
「紫藤がいるのに?!」
中山は、本気で驚いてるんだろう。
でも、俺が居たって……跡取りなんて、産めないし……。
「リョーちん、確かあの子、斗織のとこの教室の生徒だったと思う。他の生徒たちと斗織の家から出てくんの何度か見てっし」
リューガくんがそう、焦った顔をして教えてくれた。
きっと、お見合いじゃなくて教室の話なんじゃないかって、俺を安心させてくれようとしてるんだと思う。
けど、教室の話なら、教室のあるっていう自宅でするだろう。
「そうなんだ。…なら、結婚したら斗織と一緒に先生も出来ちゃうんだ」
俺は気にしてないよ、と顔に貼り付けて、店の中へ入ろうと皆を誘った。
「紫藤君」
級長の手が、後ろから肩に触れた。
「なぁに?」
振り返ると、厳しい顔で見つめられる。
「何を隠しているのか、」
肩がビクッと震える。
「我々に話してくれますね?」
その否を言わせぬ鋭い視線に俺は、導かれるように頷いて、手を引かれるまま近くのベンチへと座らされた。
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