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第108話 確認はダメ
「リョーちん、どした?」
トテトテ歩いてきたリューガくんが、「おっ、トオルじゃん」と驚きの声を上げる。
黒い大きめのバッグと、スーパーのビニール袋を持った斗織が、さっき見た着物姿のまんまで、モニターに映し出されていた。
「ああ、やっと来ましたね」
級長が意味深にほくそ笑む。
「えっ、羽崎来てんの?」
「───斗織っ!」
ドアホンの通話ボタンを押して呼びかけると、その勢いが可笑しかったのか、斗織はフッと息を漏らすように笑った。
「遼、悪かったな。遅くなった」
「っ……ううん!すぐ開ける!16階だからね!」
「ああ、分かってる」
エントランスのドアロックを解いて、勢いのままに玄関を飛び出した。
エレベーターの表示が、1階から2階、3階と昇ってくる。
待ちきれなくて、昇りのボタンを連打する。
そんなことしたって、エレベーターの速度が上がるわけないのに。
14階…15階…16階。
ポン、と軽い音がして、ゆっくりと扉が開いた。
「斗織っ」
斗織は一瞬目を見開いて、それから優しく細めた。
エレベーターから降りるのを待って、ぎゅって抱き付く。
「帰ってきた飼い主見て、うれションする犬みてェ」
頭を撫でてくれながら、そんなヒドイことを言う。
「うれションなんてしないよっ!!」
「確かめてみるか?」
「………っ」
耳元でそっと囁かれて、耳穴に入り込む吐息と脳内を犯す甘い声音に、熱が一ヶ所にきゅぅんと集まっていくのを感じた。
「………だめ」
肩に頬擦りするように、首を横に振る。
逢えないと思ってたのに来てくれるし、斗織着物で色っぽいし、香を焚き染めた好い匂いとか、するし……。
俺だって男だもん。こんな全開で誘惑されたら、…濡れちゃってもしょーがないじゃん……。
「確認はダメだけど、ちゅーなら…してもいいですよ…」
布に吸い取られるくぐもった声でねだると、斗織はくつくつ笑って、背中からお尻へと掌をスーッと滑らせた。
「…っん」
「確認するまでもねェもんな。遼の躰はエロいから」
分かり切ってるとばかりに意地悪を言って、顔を俯ける俺の顎に指を添える。
斗織は荷物を持ったままだから片手しか使えなくて……、顔に触れた優しい指先に離れて欲しくなかったから俺は、自ら手を伸ばして斗織の頭を引き寄せると、より深く唇を重ね合わせた。
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