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第128話 恩返し
見つめられてたじろいでいると、斗織はしばらく……、静かに息を吐き出した。
「遼。お前、まだ3月で別れるつもりなのか?」
「えっ?」
おかしな質問だ。
俺、初めからずっとそう言ってるのに。
斗織、まだそのこと了承してなかったのかなぁ?
首を傾げながら、「うん」って答える。
「はっ?え?はぁっ!?」
なんでか、お姉ちゃんが驚いた。
「え?どっ、どうして?遼ちゃん?」
「えっ?だって、また4月に父さん転勤でしょ? そしたら俺も、転校だもん」
「遠距離恋愛だって出来るじゃない。今もお姉ちゃんとだって、なかなか会えなくてもちゃんと姉弟として…」
「姉弟だからでしょ?」
「で、でもね、遼ちゃん。大学受験もあるじゃない? 3年生で転校なんて大変だから、1年だけでもお姉ちゃんとお母さんと一緒に暮らしてもいいのよ? 勿論ずっと一緒ならもっと嬉しいけど」
お姉ちゃんが一緒に居たいって言ってくれるのは嬉しいけど…。
「それじゃ、誰が父さんの面倒見るんだよ。それに俺、大学行かないよ。フリーターになるから」
「フリーター!?」
中学生の頃からそれは決めていたことで、本当は高校も行かなくていいって言ったのに、先生たちに猛反対されて私立の学力の高い高校を受験させられた。
別に勉強は嫌いじゃないけど、好きな訳でもない。
成績が良いとお父さんが喜んでくれるから、良い成績を保っているだけだ。
父さんが、高校は出ておこうって言わなかったら、今も高校に通わずフリーターでいたと思う。
何回も転校するのって、結構面倒だし。
「だって大学って転校できないでしょ? そしたら、父さんの転勤についていけないもん」
なんでビックリされてるのか分からなくて、首を傾げながらお姉ちゃんに伝えると、リューガくんが目を見開いて身を乗り出した。
「えっ、リョーちん卒業後もお父さんと一緒にいんの!?」
「紫藤君の成績で進学しないのは、勿体無いと思いますよ」
級長まで、そんな先生みたいなことを言う。
「でも、勉強頑張ったのも、父さんが鼻高いかなぁって思ったからで、俺別に勉強好きな訳でもないし……」
「いや! どんだけ父親好きなの、紫藤!?」
なんで皆こんな事で驚いてるんだろう…?
離婚した、小5の秋からずっと男手一つで育ててくれた父さんのこと、大好きだなんて当たり前のことだ。
俺は、そんな父さんと一緒に居たいし、独りでいる父さんのことをせめて少しでも俺が支えられたらって思う。
恩返し…って言うか。
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