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第131話 トラウマじゃない
ベッドにそっと下ろされて見上げると、斗織が体の上に乗り上げてくる。
「お前さ、……3月で別れるんだって言う度に、自分がどんな顔してるか分かってんのか?」
目の前が覆い尽くされて、斗織でいっぱいになる。
「……そんなの、普通の顔だろ。俺、平気な顔してるもん」
俺にとって3月でお別れなんて、毎年訪れる、当たり前のこと。
平気なんだから、平気な顔……出来てるはずだもん。
「お前さ、遼……。お前、俺のこと、好きなんだろ?」
「……うん。好き。大好き」
「なら、勝手に別れるとか言ってんじゃねェ。テメェのトラウマごと、抱き締めてやるから」
俺の身体の両脇に手をついて、斗織は俺の答えを待ってる。
抱き締めてって言えば、楽になれる?
でも、斗織とはまだ、数週間の付き合いじゃん。
3ヶ月しか一緒に居られない俺に、斗織のこと縛る権利なんて無い。
それに、傍に居られない俺のことなんて、すぐに好きじゃなくなっちゃうもん。
おんなじことの繰り返し。
否定されてもぐるぐるぐるぐる。
おんなじことを考えて、俺は前には進めない。
今までにも手を伸ばそうとしてくれる人は、何人も居たのに。
「なんで、トラウマとか言うんだよっ! 俺、斗織になんにも話してないのに、知ってる風な口……きくなっ」
「聖一郎さんから聞いた」
「そんなの、トラウマなんかじゃないもん。ただの意地じゃん。傍に居なくちゃ忘れるような相手なら最初から要らないだろって……、だから、だから友達だって作らなかったのにっ、なんで付き合いたいのかなんて訊いてんだよ!? そんなんっ、淋しいもん! 一緒に居たいに決まってんだろ!!」
「───やっぱ、やめた」
ピクリと眉毛を動かして、斗織が俺の上から退いた。
「お前、頑 な過ぎんだよ」
やっぱり斗織だって、俺のことなんて忘れちゃうんだ。
そんぐらいしか好きじゃない。
俺が側に居れば、そりゃあ忘れる暇もないから好きでいてくれるんだろうけど……。
でも俺、一つところには居られないもん。
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