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第133話 春の訪れ?
掌が顔から外されるのを待って、斗織を睨み上げた。
「なんで!?」
「なんでじゃねェ!お前すっかり忘れてんだろ! 沙綾さんがいんだぞ!?」
「あ……」
斗織の言うとおり、お姉ちゃんに、それから皆が居るってこと、…すっかり忘れてた。
「……でも、ちゅーぐらいは別に構わないと思いますよ?」
「いや、構うだろ。なに不満気な顔してんだ、お前は」
「ベッドに連れ込んで押し倒したくせに~っ」
「人聞きの悪いこと言うな。立ってんの辛そうだったから寝かしてやっただけだろーが」
「なにそれ!? 超!不完全燃焼!!」
心の叫びを口にしたのは、俺じゃない。代弁者は、興奮しきりのお姉ちゃんだ。
「羽崎君、キスぐらいなら構わないと思いますよ。勿論、それ以上も見せてくれると言うなら喜んで」
級長が眼鏡のブリッジをスチャッて押し上げて、何故か格好つけながらフッと笑う。その手には、カメラアプリを立ち上げたスマホ装備で。
俺にとっては実に心強い味方、なんだけど……
「あぁん、どうしましょう、遼ちゃんの艶姿……きゃぁっ」
級長のみならず、お姉ちゃんまで腐女子だったなんて……。
弟はビックリだよ、お姉ちゃん。
ワクワクの目で見てくる2人に向け溜息を吐くと、斗織はベッドから身を下ろす。
俺もそれに続いて、フローリングに下り立った。
「マメ、そろそろ行くぞ」
リューガくんはクッションの下に潜り込んでいた頭をそろりと上げる。
「ごめんね、りぅがくん。お待たせしました」
「あ、いや…いや、うん……」
多分、こういう事に免疫のないリューガくん。俺と斗織の会話に当てられちゃったのかもしれない。顔が真っ赤に染まってる。
斗織も、今じゃなくて、2人きりの時に話せばいいのに……。
なんて思いながらも、「勝手に迎えに行く」なんて言われたら、……嬉しくなっちゃうのも道理だろう。
顔が勝手にニヤニヤして、片時も離れずくっついてたくなっちゃう。
だから俺は、斗織がダメって言わないのをいいことに、リューガくんの家へ移動中ずっと、斗織の手をぎゅって握ってた。
前を歩く級長も、事あるごとにリューガくんの頭を撫でたり、顔を近付けて何か囁いてたり。
やっぱり級長、リューガくんのこと好きだよね!
リューガくんも級長には安心して身を任せてるっぽいし、いいカップルになるんじゃないかなぁって思うんだけど。
隣の斗織の顔を見上げて、かっこいいなぁって思っていると、後ろからボソッと、
「ここだけ春かよ…」
って聞こえてきた。
振り返ると、中山が寒そうに一人首をすくめて歩いていた。
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