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第134話 一緒に居たい人達と
リューガくんの家は、長い塀に囲まれた大きな平屋のお屋敷だった。
「武家屋敷みたい…」
思わず言葉に出しちゃった俺にリューガくんは、
「うち道場やってんだ」
一つ吹き出しながら教えてくれた。
リューガくんのお家は代々剣術道場を開いているお宅で、今はお祖父さんが師範をしているそうだ。
そういえば、向かいのお家も白壁に覆われた武家屋敷だったな、とポロリと言えば、
「あれ、俺ん家」
斗織に頭をぽん、と撫でられた。
「茶道のお教室やってっからな。無駄に広いだろ」
「う……。なんか、住む世界が違う…?」
「バッカ!テメェん家も父親でっけェ会社の役員で、母親社長だろーが」
そうなんだけど、…なんか、お家柄が違うって言うか……。
母親が社長って言っても、両親離婚してるし。
いいのかなぁ、俺…。
友達だ、って泊まりに来るのも場違いだったりしない?
不安が顔に出ちゃってたんだろう。
「リョーちん、俺、そーゆーこと気にして余所余所しくされる方がイヤだかんな!」
怒った顔のリューガくんに、初めてのデコピンをされた。
「う、…うん。でも、俺、…いいの?」
「なにがだよー!?」
「えっと、…えっと、うちベッドだし、フローリングだし、和室でのお行儀、悪いかもしんない」
「いいの!」
腰に片手を当てたリューガくんに、ビシッと指を突き付けられた。
「リョーちんフツーにしてりゃあゼッテーお行儀いいし! ちゃんと挨拶出来るヤツだろ? なら、全然ヘーキ」
指を逸らして、にひって笑う。
「う、うん…。ご挨拶できる…けど…」
「ちなみに、紫藤君。僕の父は裁判官で、中山君のお父上は元プロ野球選手ですよ」
「えっ、…えっ!?」
急に挿し込まれた級長の言葉を頭の中で反芻して、……思わず中山の顔を見上げた。
「べ、別に野球選手の息子がサッカーやっててもいいだろ…。今はもう引退してるから、ただのコーチだし…」
中山はなんとなく気まずそうな顔をして、級長に文句を言ってる。
それに、裁判官って……、弁護士や検事よりも優秀じゃないと出来ない仕事、だよね?
何気に俺、凄い人たちと友達やってたんだ……。
「つか!うちの学校、学力も学費もそこそこ高いんだから、そういう家の奴 集まってて然るべきじゃんよ。他にも元スポーツ選手の子供何人かいるし」
「ええ。ですから、そこに編入試験に受かって、家庭成績共に認められて転入してきた紫藤君が、我々に引け目を感じる必要は皆無だ、と言う訳です」
「それに、スゲーのはオレたちじゃなくって、親やじーちゃんばーちゃんだろ?」
「お前はいちいち余計なこと気にしねェで、一緒に居てェヤツと居りゃいんじゃねーの?」
無条件に受け入れてくれる言葉を重ねられて、俺はもう、皆に向かって「うん」って、頷くことしか出来なかった。
ほんとは、家柄のことだけじゃない。
ずっと友達の居なかった俺なんかと、ほんとに皆、友達でいていいのかな?
俺、皆に大したことしてあげられないし、面白い事だって出来ないのに、一緒にいて楽しいのかな?
俺だけが嬉しいんじゃないのかな?
って、そんなことを考えていたんだけど……。
「お前は、俺達の事が好きなんだろ? なら、細けーこと気にしねェで、おとなしくこいつらの友達やってろ」
斗織がつないだ手をぎゅって握ってくれる。
俺は、クサイことを言ったとそっぽを向いて顔を隠す斗織を見上げて、嬉しくて……、思わず声を上げて笑ってしまったのだった。
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