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第138話 〇したら浮気

大股で歩き出した中山の背中を小走りで追い掛ける。 「ごめんね、中山。俺、お詫びに背中流すから」 そう声を掛けると、中山はものっすごい勢いで体ごと振り返った。 「えっ!?マジで、紫藤!?」 両肩をガシッと掴まれる。 「う、…うん」 中山の食い付きが存外に良くて、これで機嫌よくしてくれればいいけど…なんてへらりと笑っていたら、 「遼。中山の背中流したら浮気」 斗織に頭をペチリと叩かれた。 「え?えっ?そうなの!?」 「たりめーだろ。お前は俺の傍に居りゃあいーんだよ」 グイッと腰を引き寄せられる。 これも、ヤキモチ? 独占欲? そんなことを考えて、ほっぺが熱くなる。 斗織の顔を見上げると、表情は不機嫌なままに頭をクシャクシャって撫でられた。 顔が緩んじゃう。 俺、愛されてるなぁ…って。 ふふ、と笑って中山を振り返る。 なんでか顔を赤く染める中山に、 「ごめんね。やっぱり、言葉だけで許して」 両手を合わせて許しを請うた。 「…んなことだろーと思ってました」 投げやりな言葉の後で、 「別にいーし。許すっ」 目を合わせてニカッと笑ってくれる。 「ありがと、中山」 「…いや、だって俺たち友達っしょ?」 「うん! 中山、友達でいてくれてありがとう!」 ほんとイイやつだし、中山。 これで、斗織と仲良ければなぁ。もっと俺も仲良くできるのに。 でも、それでも嬉しくて。とっても穏やかな気持ちになって、笑みが溢れ出るのもそのままに見つめると、中山の顔がボボッと、さっきよりもより真っ赤に染まった。 だけどそれが見えたのは一瞬のことで。 俺はおっきい掌で目の前を塞がれて、そのまま後ろに体を引っ張られた。 背中がポスンと、硬いものにぶつかる。 斗織の胸板と腹筋。 俺より全然男らしいそれは、羨ましくもあり、ちょっと悔しくもあり。でもやっぱり、格好いいなぁ…って惚れ惚れしちゃう。 掌が外されて、俺はそのまま顔を上げると背中の恋人の様子を窺った。 「ヤキモチですか?」 「るせェ。笑ってるヒマがあったらさっさと歩け」 「ふふっ、はい」 俺の恋人ヤキモチ焼き~、嬉しいな~♪ 解放された体でスキップしながら節をつけて歌っていると、案の定後ろから軽く頭を小突かれた。 そして腕を掴まれそうになったから、俺は逃げるように、曲がり角で待っていてくれる友達の元へ走ったのだった。

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