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第145話 しあわせ
身体はあったかいのに、布団から出てる顔だけ冷たい。
顔を半分潜り込ませて、腕枕してくれてる斗織に身を寄せる。
トクン、トクンと規則正しい鼓動を告げる胸元にスリ、と頬を擦りつけた。
寝息が聞こえているのに、無意識にか俺の身体を抱き寄せてくれる。
すき。
しあわせ。
だいすき。
斗織、すき。
胸の中まであったかい。
俺のこと、迎えに来てくれるんだって。
俺の居場所、作ってくれるんだって。
俺、ずっと斗織の傍に居られるんだって。
顔を上げて、寝顔を見つめた。
目を閉じてる斗織はいつもの眼力が無くて、眉毛も少し垂れてて、起きてる時より幼く見える。
可愛い……。
ズズッと身体を上げて、ほっぺにちゅってする。
耳にもちゅっ。
唇にも、ちゅっ。
満足して、ゴロンと転がった。
へへ~っ。
目を瞑って、もう少し寝ることにする。
斗織のぬくもりを感じながら、まどろみの中に落ちていった。
「───なっ、なんだコレッ?!」
庭から聞こえる鳥の声とか、障子を透けて射し込んでくる白い朝日とか。
冬の朝をぼーっと楽しんでいた耳に、突然リューガくんの叫び声が飛び込んできた。
「……んだよ、マメ。朝からうっせェ…」
地べたを這うような低い声。
斗織、この間より寝起きが悪い。
機嫌悪いのかな…?
クイクイって袖を引いて、振り返ってくれたその唇にキスをすると、頭をポン、て撫でてくれた。
いきなり起こされたから眠いだけなのかな?
普通にやさしい。
「どうしました?大豆田君」
「い、いや、なんでもねー。……俺、トイレ行ってくるッ!」
「ああ、ついでに着替えを持って行ったら如何でしょう?」
「あっ……、う、うん!そーするッ!」
「下着の替えもお忘れなく」
リューガくんは部屋の隅に用意しておいた着替えをババっと掴み、焦ったように障子を開け飛び出していった。
「いってらっしゃい」と、級長が手を振る。
「おう!」
2人の様子を黙って見守っていた中山が、
「嵯峨野……」
哀れみを含んだ視線でリューガくんの背中を見送りながら、何故か級長の名前を呼んだ。
「拭いてやんなかったの?」
「面白いかと思って」
コソッと話す2人の会話はこちらまでは届かない。
「寒ィし眠ィ…」
斗織があふ、と欠伸をした。
抱き寄せられて、その首元に顔をうずめる。
「もう少し寝んぞ」
「はーい」
ぬくぬく、あったかい。
「……遼、あったけェ」
不意に斗織がほぅ、と息を吐きだす。
「ん、あったかいね。…しあわせ?」
「ああ」
素直に頷いてくれる斗織に、俺の心はもっと温かくなっていく。
斗織は、俺の太陽なんだな……
なんて、そんなことを思いながら俺は、しあわせな気持ちで再び眠りに落ちていったのだった。
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