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第155話 鬼の娘
【マナちゃんSide】
玄関前に立ち呼び鈴を押せば、大和の奥さんの芽衣ちゃんと、1歳児の娘・真衣ちゃんが出迎えてくれた。
芽衣ちゃんは高校の同級生だから、俺も顔見知りだ。
おっとりとした優しいお姉さんってイメージの人で、どっちかってーと同級よりも後輩にモテていた。
真衣ちゃんは俺じゃなく、隣に立つ大男を見つけると、
「とーゅおにーたん、おにーたんっ、だっこぉ」
モミジみたいなちっちゃい掌をいっぱいに開いて両手を伸ばした。
「こら、真衣。ご挨拶が先でしょ」
芽衣ちゃんに咎められると、手を下ろして頭を下げる。
「いらっしゃ、んちわっ」
な…んだ、この可愛い生き物はっ!!
ホントにあの鬼の娘なのか!?
それとも、鬼も昔は可愛い生き物だったというのか!!
「こんにちは、真衣ちゃん」
腰を屈めて視線を合わせて真衣ちゃんに挨拶。それから芽衣ちゃんにも笑いかける。
「芽衣ちゃん、久しぶり」
取り敢えず母親と仲良く会話をして、可愛い生き物に安心感を与える作戦だ。
俺は君のお母さんと知り合いだよ。怪しい人間じゃないからね。
「真中君、相変わらず若くて可愛いね。大学生くらいに見える」
「いやいや、それ褒め言葉じゃないからね」
「えっ、私言われたら嬉しい」
「はいはい。芽衣ちゃんは27でもお母さんになっても、いつまでも若くて可愛くていいね」
「ちょっとっ、歳っ! ピチピチDKの前で歳っ!」
その、ピチピチDK斗織くんは、芽衣ちゃんに挨拶すると土間から廊下へ上がり、高校生とは思えない慣れた様子で真衣ちゃんを抱き上げていた。
沓脱ぎ石も一跨ぎ。
脚長ぇな、ここん家の三兄弟は。
「おにーたっ」
「お兄ちゃんじゃなくて叔父さんな」
言ってることも高校生じゃない。
「真衣、何度言われても聞かないのよ。ずっとお兄ちゃん」
と、芽衣ちゃん。
どうやら斗織は、毎回「自分は叔父さんだ」と1才児に言い聞かせているようだ。
「真衣、今日はお父さんに用があって来たんだ」
「おとーた?」
「ああ。だから、遊ぶのはそれが終わってからな」
「う?」
「真衣は、先にお部屋に出しっ放しのおもちゃを片付けなくちゃね」
「あいー」
芽衣ちゃんに部屋へ戻るよう促されると、真衣ちゃんは大きく手を上げてお返事。
てか、腕が短くて、頭の上まで届いてないとか!
このぷにぷに天使め!
それから真衣ちゃんは、くるっと回転して俺の顔を見つめてきた。
デッケェ黒目がキラキラしてる。
「おにーたんも、あしょぶ?」
あぁぁ……子供可愛い……!
「うん、お兄ちゃんも遊ぶよ!」
「ぁい 、かたじゅけてくゆー」
「おう、行ってこい。綺麗にして来いよ」
「あい!」
斗織に頭を撫でられると嬉しそうにもう一度手をピッと挙げて、真衣ちゃんはトコトコと部屋に戻っていった。
その後ろ姿を見送って、
「お邪魔します」
俺も上がり框を跨いで、玄関マットを踏みしめる。
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