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第156話 鬼の棲み処

【斗織Side】 芽衣さんの案内で客間に通される。 今は和装ではなく洋装だが、いつも通り部屋の前で正座をし、断ってから襖を開くと、相変わらずの仏頂面の大和兄さんが視界に映った。 ………パジャマだ。 寝癖も酷い。 寝起きだ。 完全に、機嫌が悪い───!! 「今日は時間を作って頂き、ありがとうございます」 とにかくこれ以上機嫌を損ねないよう丁寧に、丁寧に頭を下げた。 だと言うのに、 「よ、大和。久しぶり」 立ったまま手を上げる通常営業のマナちゃん。 ──何してんだこの人!? 座れ、座れと手招きするのに、マナちゃんは全く意にも介さず、俺を避けて室内へ足を進める。 流石に敷居は跨いだか。 つかこの人恐い!なんなんだ!? 仕方なく、その後を追い畳の上に移動した。 「あー?久しぶりじゃねェよ。今何時だと思ってんだよ」 「午後2時過ぎ。大和は朝まで仕事だったんだろ。お疲れさま」 「あれ?お前若くね?幾つんなった?今何やってんだ?大学生?」 「いや、お前と同じ27だから。斗織の高校の養護教諭」 そのボケは夫婦のテッパンなのか、芽衣さんに続けて大和兄さんまでがマナちゃんを「大学生か」等と訊いている。 マナちゃんは言われ慣れているのか苦笑で流すと、兄さんに持っていた紙袋を手渡した。 「これ土産。後で皆で食って」 「おう、悪いな」 マズい……、土産なんて持ってきてねーぞ。 つかマナちゃん、自分で持ってくるなら俺にも教えといてくれ。 手土産なんて考えもしなかった。 「で?」 兄さんの目がジロリと俺に向けられ、ついでマナちゃんに流れる。 「その組み合わせで、どんな話を持ってきた?」 来た───! らしくもなく、緊張で汗ばむ掌を膝の上で握りしめる。 「斗織がオンナ妊娠させて問題になりそうってんなら、保護者は俺じゃねェから父上と母上に持っていけ」 オンナを妊娠………寧ろ逆だ。 「いやいや、斗織はイイコで頑張ってるから。でも…まあ、付き合ってる…系の話ではある」 途切れ途切れに伝えるマナちゃんに、大和兄さんは「ハァ!?」と眉を顰めた。 「まさか、斗織と付き合ってるとか言うんじゃねェだろーな!? テメェ、したら兄貴はどーなんだよ!」 「はぁっ!?兄貴…って、一也さん!?」 マナちゃんが頭を抱え、何かブツブツと呟き出す。 「え?なんで?俺言ってないよ?一也さん…え?なんで!?」 きっと、一也兄さんの口から聞いたんだろう。 そんな驚くことでもないだろうに。 マナちゃん、慌て過ぎだ。

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